21
公園からは、徒歩で10分弱。あの頃、子供の足でだ。車では1曲も終わらないうちに着いた。目の前ではなく、少し手前に停めてもらった。
あの家が、もう無い事はわかっていた。目に映るのは、全く知らない建物。
でも、わたしには、あの頃住んでいた家に見えた。
車から降りると、早坂さんと瀬野さんも一緒に降りた。
「何かあるのか?」2人がわたしを囲むように並ぶ。
「前に住んでた所なんです。もう新しい家が建ってるけど」
「取り壊したのか」
「もともと貸家だったんですけどね。母さんが死んで、わたしはすぐ祖母の家に行ったので、それ以来初めて来ました」
「親父さんは?」
「母より先に亡くなってます」
「そうか」
別に、何がしたかったわけではない。本当は、来るのもやめようと思っていた。あの頃住んでいた家があるわけでもないのに、行ってどうするんだと。でも、実際来てみると、素通りする事が出来なかった。
「ただ、見てみたかっただけなんです。今はどうなってるかなぁって。気が済みました、行きましょうか」
「まだいいのよ?」
「いえ、不審者になりたくないし」
車に戻ろうとしたその時、隣の家の玄関のドアがガチャっと開いた。
───あ、"マズイ"。
「雪音ちゃん?」
中から出てきたその女性は、エプロンにサンダル姿でわたしの元に駆け寄って来た。
「雪音ちゃんでしょ?」
「・・・おばさん、お久しぶりです」
おばさんはわたしの目を見つめ、両手をぎゅっと握った。「やっぱり!窓から見て、そうじゃないかと思ったの!びっくりしたわ・・・こんなに美人さんになって・・・」
「あは。おばさんも変わってないですね」
「何言ってるの、もうすっかりおばあちゃんよ。あなたの事はね、たまにお父さんとも話してたのよ。今頃どうしてるのかなって。おばあちゃんの家に居たのよね?どうしてここにいるの?」
相変わらず、マシンガントークだ。
「ちょっと、こっちのほうに用事があって。ついでに寄ってみたんです」
「そう。うん、うん。あなたの事ね、心配してたのよ。お母さんがあんな事になってから・・・」
「おばさん。わたしは見ての通り元気だよ」ニコッと笑って見せた。
「うん・・・そうね、そうよね。本当、立派になったわ。よかったら、少し寄っていかない?そちらの2人も・・・」
「ううん、夕飯時だし、わたし達も急いでるから。また遊びに来るよ」