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第三十一話 酒は呑んでも呑まれるな

「室長……って?」

 目をかっと開いて驚きの顔をしているミスティに質問をする。
 目の前のサイボーグの女性は恐らく先日助けてくれたルドラだろうと思われたが、知り合いらしい。室長と言うと……。

「こちら、秘書室長のルドラ・イクシーさん。私の上司ってこと」
「え!」
「あなたこの前の人間と虎ちゃんじゃない。ミスティ、知り合いだったのね」
「件の番ですよ」
「ああ、なるほど。道理で以前も見覚えがあると思った。書類で見ていたんだったわね」

 ミスティの上司。と言うことは総督府で働いているのか。身近に居たことに驚きが隠せない。あの、と声をかける。

「先日は助けていただきありがとうございました」
「何? お会いしたことあったの?」
「その、強姦未遂の時に助けてもらった方だったんだ」
「……室長、強いからね」

 ミスティは納得が行ったらしく、うんうんと頷いている。秘書には武力も必要なのだろうか……。

「ところで室長はなぜこちらに? その……」
「ああ、言いたいことは分かるわミスティ。私には化粧品は必要ないから。私のパートナーの付き添いよ」
「ああ、そう言うことでしたか」

 遠くからルドラ〜と彼女を呼ぶ声が聞こえた。声からして女性らしい。遠目だが赤毛の女性と分かる。

「ではこれで。ミスティも番のお二人も良い休日を」
「はい、お邪魔して申し訳ありません」
「いいわよ。じゃあね」

 それだけ言うとルドラは赤毛の女性の元へと向かって行った。

「まさか身近に居たとは……灯台下暗し」
「ミツミはわかるんだけれど、ヒューノバー、あんた見かけたことなかったの?」
「うん。記憶に無い」
「この虎ちゃんは……抜けているな」
「室長かなり有名な方よ? 記憶力馬鹿なんじゃないの?」
「そこまで言うのかいミスティ……」

 しょぼ、と耳を垂れさせているヒューノバーに、元気出せよ。と背を叩く。一応しばらくすると機嫌も上昇したようで普段のヒューノバーに戻る。

「どんな方なの? ルドラさんて」
「有能よね〜。けど私生活はほとんど謎に包まれててわかんないのよね」
「へえ〜ミステリアスなんだ」
「パートナーが居たことすら今知ったわ。私」

 話しながらおすすめのマスカラを教えてもらい、一応気になるものは全部見たかな。とミスティに告げる。

「会計済ませてきたら? 待ってるから」
「そうする。行ってくるね〜」

 レジに向かい、人間の店員に対応してもらって会計を済ませる。紙袋を持って二人の元へと戻ると化粧水の棚を見ていた。

「お待たせ」
「人間って体毛に包まれてないから肌トラブル多いって友人に聞いてたけど、化粧水も結構種類あるものねえ」
「そうだね〜不摂生すると吹き出物とか出ちゃうからね。それ考えると獣人って楽だよね」
「獣人も毛並みボサボサになるヒトもいるけれどね。さあ食べ歩きに行きましょう」
「お、やっぱり何か食べるんだね?」
「俺ラーメンが食べたいなあ」
「私もラーメンに一票」
「ええ〜? パンケーキ食べたいんだけど私」

 結局三人で審議した結果ラーメン組の勝ちであった。しかしミスティもおすすめのラーメン屋は知ってるらしくそこへと向かう。
 店に着くと大分繁盛しているようで数名行列が出来ていた。三人で並びながら雑談タイムに入る。

「二人ってお箸使えるんだね〜」
「カトラリーは一通り幼少期に習うんだ。ミツミの国だと一般的なんだよね」
「基本なんでも箸だからね。ナイフとフォークの方が使いずらいな〜」
「国民性ってやつね。この惑星じゃあミツミからしたら文化ごちゃ混ぜなんじゃない?」
「大分そうだね。洋食屋もありゃ和食屋もあるしラーメン屋もあるし。まあ食べたいものの選択肢多いっていいよね」

 しばらく雑談し、三名のお客様〜。と呼ばれて店内に入る。何にしようかとメニューを眺める。やはりここは……。

「味噌ラーメン一択」
「俺とんこつにするよ」
「私醤油」
「三者三様になっちゃったな」

 注文してからもしばらく雑談は続き、ラーメンが出来上がると三人とも無心で食べ続ける。スープまで飲み干すとかなり満腹だ。
 会計をして店を出ると、次服屋行くわよ。とミスティに言われる。

「この前買ったばっかだよ」
「あれ近場だったから進めたけれど、獣人用だとパンツに穴空いてるでしょ。人間用のも持っておいた方がいいわよ」
「でも大体の服はボタン付いて閉じれるから下着見えないし」
「正直に言うわ。ヒューノバーのセンスを信じきれていないから私が選び直したい」
「何で俺ずっと貶されてるんだろう」

 再びしゅんとし始めたヒューノバーの背を叩く。私はお前のこと信じているぞ。と告げるがミスティは信じるなと告げて私の手を引いて進み始める。

「服を見たらミツミ、あんたは人間用の着心地の良さに気がつくわ」
「なんでぇ?」
「獣人って体毛あるでしょう。だから生地が人間と違って肌に接しない訳。肌触りが違うって友人も言っていたし」
「あー、肌触りかあ。気にしてなかったな」

 ブティックにたどり着いてから早速ミスティによって着せ替え人形化する。しかし確かに肌触りは人間用の方がいい。何着か選んでもらい着てみて気に入ったものを買った。

 ミスティはショッパーをヒューノバーに押し付けて荷物持ちに躊躇なくしている。同期故の遠慮の無さなのだろう。

「何か見たいものリクエストあるかしら」
「んー、アクセサリーってある? お手頃価格の」
「あるある。ほら行くわよヒューノバー」
「俺の扱い雑すぎないかい」

 ヒューノバーは結構ミスティに振り回されているが、この二人見ていると面白いな。なんて心の隅で考える。ヒューノバーは引っ張るより引っ張られるほうが面白さが増す気がする。

 アクセサリーを扱っている雑貨屋にたどり着き、中に入れば女性客がちらほらと見て取れる。ミスティとヒューノバーは獣人なのでこの店にとっては珍しいお客なのか注目を集めていた。

「何が欲しい?」
「ピアスあるかな。惑星転移でピアスコレクション無くなっちゃったからさあ」
「確かにねえ。集めていたもの無になっちゃった訳ね」
「ヒューノバー選んでよ」
「俺アクセサリーは疎いからなあ」
「直感でいいよ直感で」

 んー、と言いながらヒューノバーがピアスの棚を凝視している。ミスティは自分用のを探したいから、と別の場所に向かった。

「これは?」

 ヒューノバーが選んだのは緑色の雫型のピアスだ。石が綺麗に透き通っている。

「これを選んだ理由は?」
「ミツミって心理潜航する時って緑色の光が見えるんだよね」
「そうだね」
「それもあって緑色、似合うかなあって」

 ヒューノバーが私の耳にピアスを近づける。

 うん、似合いそう。と微笑んで思わずその顔に絆されそうになる。動揺を隠そうとこれ買ってくるね! とヒューノバーからピアスを受け取ってレジに向かった。会計を済ませるとミスティはネックレスの棚で長考しているようだ。近づいてみる。

「何かお悩みかしらミスティさん」
「ちょっとね〜。かわいいのあるけれど、小ぶりなのって服によっては体毛で隠れちゃうからさあ。使いどころあるかなあって」
「買っちゃいなよyou……」

 欲しいか悩んでいるなら買って後悔した方がいいよ。と告げると、それもそうね。と商品を手にレジに向かって行った。

「乗せるのうまいねえミツミ」
「へへ、友人の受け売りだよ」

 ミスティを待ちながら店内をうろついているとミスティが帰ってくる。店を出た後、一旦総督府近くに向かおうと地下鉄へと向かう。

「これから何か予定あるの?」
「飲むのよ」
「お、酒ですか〜いいですな」
「つまみも酒も種類多いパブがあるの。休日に飲まない手はないでしょう?」
「俺は無限にご飯食べててもいいかい」
「あんたそういや下戸だったわね〜。まあ酒より食い気優先でもいいわよ。私は酒飲んで楽しくなるから」
「完全に偏見なんだけど、ミスティ酒癖悪そう」
「……ふ」
「うわあ図星だ。助けてくれヒューノバー」
「俺には止められないな〜」

 総督府近くに着いてからはミスティの案内によりパブにたどり着いて酒を飲み始めた。ミスティは……とても大変だったとだけ言っておこう。

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