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「1年くらい前かな。俺が20歳になったばっかの時、叔父の店で友達と飲んでたら、店長と春香さんと3人で来たんすよ」
「仕事終わりだね。凌さんの所には何回もお邪魔してるから、いつの時かわかんないなあ」
「メッチャ綺麗な人が来たって、今でも鮮明に覚えてます」
ここまでニコニコ言われると、恥ずかしさも感じないものだ。「はいはい、ありがとう」
「これマジッすよ!」
「はいはい。でも、なんで凌さん何も言わなかったんだろ?甥っ子さんいたなら紹介してくれてもいいよね」
「あー」一真くんが、何か思い出したように笑った。「あの時、春香さんがメッチャ荒れてて、それどころじゃなかったんだと思います。たぶん、当時の彼氏の話かな。優柔不断で何も決めれないクソヤローって騒いでたの覚えてます」
「あー・・・そんな事もあったな」後日、春香が酔っ払った勢いで相手にキレて、メールでフラれたんだっけ。
「で、その時、雪音さん見て思ったんです。しっかりした人だなって」
「何を見て思ったのかわかんないけど、わたしはしっかりしてないよ」
「同じ事を何回も言う春香さんの話を、嫌な顔せず聞いてあげるし、店長とか叔父に対するフォローも忘れないし。春香さんがトイレに行く時はちゃんと見守ってたり。すみません、あそこカウンターだけだから、いろいろ見えちゃうんすよね」
「・・・よく見てるね。でも、それは2人が泥酔してるからそう見えるだけで、わたしも結構酔っ払ってるからね。わたしまで春香みたいになったら凌さんから出禁喰らうから、気をつけてるだけ」
一真くんは、ハハハッと笑った。「雪音さんも苦労してますね」
「まあ、お互い様かな。普段わたしも、春香にだいぶフォローしてもらってるから。仕事でもね」
「俺、TATSUのバイトの話受けた時、ソッコーで決めたのは、雪音さんがいたからですよ」
「・・・え」
わたしに向ける一真くんの目が、さっきとは違って見えた。こういう空気は、苦手だ。
「口が上手いねえ」
一真くんの腕が、微かにわたしの腕に触れる。「バイトもあるし、今はこれでいいすけど、俺の言った事は忘れないでくださいね」