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「タクシーもあるから、大丈夫だよ。ありがとね」
「・・・なんか俺、警戒されてます?」
「違ーう!わざわざ送ってもらう距離でもないってこと!大丈夫だから、一真くんはみんなと飲みに行ってきて」
「近いなら尚更、送りますよ。タクシー代も、もったいないでしょ。雪音さんちって確か、地下鉄からすぐの所なんすよね。俺、帰りは電車で戻ってみんなと合流するんで」
人がいない間に、どこまで情報を流してるんだこの女は。今観ている海外ドラマの女スパイを思い出した。表の顔は、カフェで働くごく普通の女性。裏の顔は、諜報機関に所属する腕利きの女スパイ。2つの顔を持つ女。二重人格の女、正に春香そのもの!
──って、ドラマの世界に入り込んでる場合じゃない。
ここまで言われて、断るのもちょっと違うよね。
「じゃあ、お願いしようかな・・・スミマセン」
「全然問題ないっす」笑顔を見る限り、本当にそのようだ。
店を出て、わたし達は二手に分かれた。
「じゃあ雪音ちゃん宜しくね、一真くん。送り狼になっちゃダメだよ〜」
何を言ってるんだこの人は。
「わかんないすけど、頑張ります」
何を?
2人並んで街中を歩きながら、思ったことがある。一真くんは、歩くのが早い。いや、わたしも早いほうだから困りはしないが、早坂さんはもっとゆっくりだ。早坂さんの方がリーチがあるのに、それだけゆっくり歩いてくれていたという事か。──・・・なんで、ここで思い出すかな。
「雪音さんって、身長何センチすか?」
「えっと、167」
「やっぱり、けっこー高いすよね」
「平均よりはね。一真くんも高いよね」
「俺は180です」
やっぱり、あの2人は180ではないな。もっと目線が上だ。「この前、雪音さん迎えに来てた人達も、かなり大きかったすよね」
口に出ていたのかと思い、ぎょっとした。「そうだね、あの人達はいろいろと規格外・・・」
「モデル並だったけど、彼氏じゃないんすか?」
「違うって」
「本当に?」
「嘘ついてどーすんの」
「良かった。なんか、距離感的にそうかなって思ってたんで」
良かったって、なんか、意味深なんですけど。「あの人の距離感は、あれが普通だから」おそらく、誰に対してもああなんだろう。そう考えると、何故かモヤっとする。