第17話 唯一王 遺跡の中へ
仕方がない。こいつらは、痛い目にあって気付くしかないんだ。
「もういいフリーゼ。こいつらの好きにさせてやれ──」
「そ、それでは……」
戸惑っているフリーゼ。優しいから戸惑っているのだろう。その気持ちは嬉しい。しかし、その優しさはこいつらには通用しない。痛い目に合わなければ、理解しない奴らなんだ。
「了解しました。しかしここには強力な魔物が潜んでいます。それを肝に銘じて行動してください」
「ったくよぉ。最初からそうすればいいんだ。このクソ精霊が。俺達Sランクがそんなモンスターごときに負けるわけがねぇっつの」
ニヤリと笑ったウェルキに続き、他の三人も後に続いて前へ。
それから、トランのパーティーもその後ろについた。
トラン以外はキョロキョロ視線を泳がせ、戸惑っているように見える。話し合ったりせずに彼が決めたのだろうか。
なんにせよ、彼らや力のないC,Dランクのパーティーにもしものことがないか注意しながら進む必要がある。
それなら大丈夫。俺は今までアドナたちといたときは常にトラップを警戒し、魔物の気配を探っていた。
だから今回もそれらに気を付けて進むだけだ。
「じゃあ遠慮なくいかせてもらうぜ」
そしてアドナ達は意気揚々と道の先へと進んでいく。
「では、私達も行きましょう」
フリーゼの言葉に反応し、俺たちも移動を始める。
身体の力を抜き、泳ぐようにして前へと進む俺達。
進み始めて五分ほど。
「おおっ、あれ宝箱じゃねぇか」
「いいじゃない。ついているわ私たち」
ウェルキとキルコの嬉しそうな声。そして前方には道の中央に宝箱。
確かに嬉しいけど。ど真ん中に宝箱なんてあからさますぎる。罠の可能性だってある。
「待て、迂闊に飛び込むのは危険だ。俺たちも行く。だからちょっと待て」
忠告。いつものことでわかっていてはいたが、聞く耳などもっていない。
「残念だったな。負け惜しみしたってお前に分け前はねぇよ」
警戒の素振りなど微塵もない。
Sランクという称号があるせいで、自分を無敵だと勘違いしてしまっている。
そしてウェルキが宝箱に手を伸ばしたその時。
「グォォォォォォォォォォォォォォ!!」
突然宝箱が強く光始め、俺たちは一瞬瞼を閉じてしまう。
そしてすぐに目を開ける。すると──。
「た、助けてくれ──」
ウェルキの悲鳴の声と同時に三メートルほどある巨大なサメが出現していた。
確か名前はダイダル、何かに擬態しては奇襲して冒険者を襲うことがあるサメ。
そう、俺の予想通りあの宝箱はトラップだったのだ。
そしてダイダルはそばにいたキルコとウェルキに襲い掛かっている。
奇襲に近い形だったせいか、二人は満足に対応が取れず、何度かかみつかれていた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、いててててててててて!」
二人とも、腕から出血している。とりあえず応戦しないと。
俺とフリーゼはアイコンタクトを取り、応戦に向かう。
するとミュアが杖を取り出し、回復術式を発動させた。
「聖水の加護よ、私達に、生きる力を──、ヒーリング・ウォーター・ハート」
俺が加護をしていた時より効き目は薄いものの、噛まれた程度の傷なら彼女でも直せる。
現に見る見るうちに二人の傷口がふさがってきている。
そして傷ついた二人をかばうようにアドナがダイダルに立ちふさがり、剣を突き立てている。
俺とフリーゼは左右に分かれてダイダルに襲い掛かる。ダイダルは俺に反応し襲い掛かるがその背後を二人がついてその肉体を貫いた。
一人はフリーゼ、もう一人は──。
「貴様、そこそこ実力があるな。やるじゃん」
「そちらこそ。トランさん。強いお力ですね」
トランだ。二人にくし刺しにされたことによりダイダルは血を噴き出してその場に倒れこんだ。
「何とか、倒しましたね。フライさん」
「そうだなフリーゼ。しかしいきなりこれかよ。これは気を引き締めないとな」
しょっぱなから宝箱に偽装したトラップ。つまり俺たちを歓迎していないということだ。
これから先、さらに強い魔物と出会うことが予想されている。
こいつら単純バカの介護をしながらの探検。でも絶対成功させなきゃ。
そして気を引き締めた俺は怪我をしたウェルキとキルコの状態を見て、進むことを決める。
時折魚の形状をした魔物と戦う。そこまで強い相手ではなかったので、俺の加護を使うまでもなかったが。
その途中で、時たま宝箱を見つけるアドナたち。
「おおっ、宝だ」
「まて、また罠かもしれないだろ」
「わかってるよ。注意するって」
アドナがウェルキの肩を掴んで止める。
流石に無警戒ということはないが、それでも宝箱に向かっていく。
「すっげー、宝石じゃん。全部俺たちの物だぜ~~」
薬草や、見たこともない宝石がそこにあった。まあ、俺たちはそれが目的ではないからいいか。
それから、魔物と戦い、宝箱を開けたりしながら道をしばらく進んでいく。
そして泳ぎ続けてしばらくたったころ。俺たちは広い部屋へとたどり着いた。
見たこともない古代文字が文章の様になっていて、明らかに何かありそうな雰囲気を醸し出している。
そんな雰囲気から俺は警戒モードに。
「ちょっと待て、ここから先は何かがおかしい」