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第16話 唯一王 海底遺跡へ

そして各自回復や休息、準備などを取り、時間。

 俺たちは最初に集まった場所に戻ってくる。

「皆様、準備はよろしいでしょうか。これから私の転移術式を使って海底遺跡へと行きます。そうなればしばらくの間。つまり目的を達成するか、私達が壊滅的な被害を受ける以外、ここに戻ってくることはできません。大丈夫ですね?」

「大丈夫だよ。このSランクパーティーの俺たちがいるんだろ。余裕余裕」

 ウェルキの自信満々な言葉、それを聞くとフリーゼが他のパーティーに視線を移す。
 トランは一回背後にいる仲間たちに視線を向けた後、平然な表情で言葉を返した。

「俺たちも、大丈夫だ。俺がいる限り、こいつらを死なせはしない」

 そして、他のパーティーたちも「大丈夫だ」と返してきた。

「では出発いたします。転移術式を使いますので、私のそばに寄ってください」

 その言葉に全員がフリーゼのそばによる。

「では──、いきます」

 そしてフリーゼが左手を天に向かて上げると、彼女の手が青色に光始めた。
 その手からは俺たち人間とは比較にならないくらい強大な魔力を感じる。

「聖域なる力よ。我らを聖なる地へ! プリズム・フレア・テレポート!」

 フリーゼが叫んだ瞬間、突然視界が真っ白に光始めた。
 そして、地についていたはずの足の感覚がなくなる。周囲が全く見えず、宙に浮いているようなふわふわした感覚になり、意識が途切れた。





 海底遺跡。どんな場所かな。絶対に、全員生きて帰れるように頑張ろう。




 時間にして数秒。真っ白だった視界にとある光景が移る。
 その光景に俺は唖然とした。

「ここ、水中じゃないか」

 そう、明らかに水の中にいる。不思議なことに自然と目が開けられる。他の奴らもこの空間にいるのがわかる。その中に浮いているように存在していた。

 場所は、大きな部屋。それも古代にある遺跡のような石畳でできた空間。
 というか深い場所にいるせいか水面が見えない。これじゃあ息ができないぞ。他のパーティーたちも苦しそうに焦っているのがわかる。

 しかし、フリーゼは落ち着いた様子で平然と泳ぎながら俺たちの前にやってきた。
 その姿はまるで海の中を優雅に動く人魚のようだ。

 そして周囲をなだめるように話しかけてきた。

「皆さん。ここは特別な空間です。普通に呼吸ができますし、しゃべることも出来ます。安心してください」

「あっ、本当だ。大丈夫みたい」

 ミュアの言葉通り、口を開けて、いつもの感じで息を吸うと、自然と呼吸ができる。水の中にいるし、感覚的には海中にいる感じのそれなのに、不思議な感じ。

 他の人たちも、恐る恐る呼吸をしたり、しゃべり始める。
 そしてそれを確認すると、フリーゼは周囲に視線を配りながら話を始めた。

「これから先。どんな罠が待っているか私にもわかりません。なので宝箱を見つけたら勝手に開けずに私に報告してください。私が罠がないかどうか確認して宝箱を開けます」

「宝箱? やっぱりここにもあるのかよ」


「はい、ウェルキ様。精霊の遺跡についての構造は。私も主でしたので、傾向としてわかります。私の遺跡でもあったように、この遺跡でも所々にあるでしょう」

「よっしゃー。俄然やる気がわいてきたぜー」

 自信満々に声を荒げるウェルキに、フリーゼは真剣な表情を崩さず、たしなめるように話していく。

「しかし。いいことばかりではありません。私の遺跡でもそうだったように、ここの魔物たちは強力です。あなた達、以前私がいた遺跡から命からがら逃げかえってきたようですが、あれと同程度の魔物がいると思ってください」

 その言葉にウェルキだけでなく、キルコとミュアの体がピクリと動いたのがわかる。
 やはり逃げ帰るとき、大分苦戦したのだろう。


 考えてみれば当然だ。精霊がいるということはそれだけダンジョンにある魔力も多い。ということは他のダンジョンより強力なトラップや魔物がいるということ。それは、フリーゼがよく知っている。

「なので、これからは私が先頭を歩きます。このダンジョン、大分罠が多いようですから。私なら、その傾向がわかりますから」

「ちょっと、何よそれ。手柄を横取りする気?」


 その質問にかみついてきたのはキルコ。
 そしてウェルキとアドナも同調。

「そうだそうだ。おかしいだろ、自分たちが情報を持っているのをいいことに、宝を独占しようとしているんだろう。やることが卑怯だぞ!」

「同感だ。そしたら、このダンジョンにある宝は全部貴様たちが手に入れるということになるではないか」

「そんなことはしません。それでは、私達が手に入れた宝は平等に配分するというのはどうですか?」

 フリーゼの言葉に、アドナがかみつく。

「ふざけるな。分け前は貴様や後ろにいる雑魚パーティーと平等だと? いい加減にしろ」

 自分たちが強い(と思い込んでいる)のをいいことにかみついてくるアドナ達。
 しかし、本来これは冒険者に常識の基本すら知らない貴様達には有利な条件のはずなんだ。

 そもそも基本中の基本として、ダンジョンというのは完全な適地。アウェーで敵が直接作り上げた空間になっている事もある。
 そんな場所で、いくら価値があるものだからって無条件で本物だと信じたり、そこに無警戒で行くというのはとても愚かだ。

 俺がこいつらのパーティーにいるときは、ダンジョンで先導役をしていた。そして罠がないか、偽物ではないかなど十分警戒をしていた。
 全部俺に押し付けていたから、そういう他のパーティなら当たり前のようにやっていることが理解できないんだ。

 それでも、そんなことも理解できないやつらに分け前を配るというのだからかなり優しい条件なはずなんだが。

 仕方がない。こいつらは、痛い目にあって気付くしかないんだ。

「もういいフリーゼ。こいつらの好きにさせてやれ──」

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