第13話 唯一王 海へ
落ち切っている夕日の光が部屋に入り込み、オレンジ色にその場所を照らす。
その中でフライを除くパーティー「チーム・フレアファクション」。アドナ達が暗い表情で座り込み会話。場所は、彼らが生活している部屋。
どんよりとした暗い雰囲気。
それもそうだろう。ダンジョンから命からがら逃げてきたものの、そこまでの道のりは命がけだった。
今まで楽勝に倒してきたゴブリンたちが、まるでダンジョンのボスの様に強敵になっていた。
正直、もう一度同じことをして絶対に脱出できるという保証は感じられなかった。
自分たちが「いくらでも変わりがいる雑用係」と称して首にしたフライは、少し息を荒げるだけで、一人で退治していたというのに。
それに、フライはフリーゼを仲間にしていた。
自分たちが全力で戦い、手も足も出なかった敵を味方にしたという事実
それだけではない。俺たちと言い争いになった後、俺を追放したという言葉からリルナさんに強くたしなめられる形となってしまった。
「今回は証拠が不十分で処分は下しませんが、本当にパーティー仲間を故意に見捨てた場合はギルドの規約違反となり、追放されることもありますから注意してくださいね」
これらの言葉か彼ら、特にウェルキのプライドをずたずたに傷つけていた。
「もとはといえばあいつが 全部フライのせいなんだよ!」
三人に訴えかけるように強く叫ぶウェルキ。今までのふがいない戦いぶりをごまかすような威勢の強さ。
おまけにこの後フライなしでいくつかクエストに挑んだが、彼の加護なしでは思うような戦いができず、苦戦続き。
中には敵を倒せず、撤退を余儀なくだれたクエストもあり、周囲から「本当にSランクパーティーかよ。裏金でも渡したんじゃないのか?」という陰口をたたかれる始末。
このままではランク降格だってあり得る事態になっていた。
「フライなんかに負けてたまるかよ。俺たちがやっとつかんだ名誉を、あんな奴のせいで奪われてたまるかよ!」
ウェルキの叫びに、キルコがこぶしを握りながら反応。
「そうよ。絶対汚名返上するわ。だからこのクエスト、絶対に失敗するわけにはいかないわ!」
アドナも、黙ってはいたが、歯ぎしりをしてイライラしているのがわかる。
「そうだ。次の海底遺跡への探検。絶対に成功させて、俺たちの力を見せつけてやるんだ」
やっとのことつかんだSランクパーティーという称号。
それを今まで一番使えないとレッテルを張っていたフライなんかのせいで剥奪されかねないという現実。
それらが、彼らの闘志を今までにないくらい研ぎ澄まさせていた。
「う……、うん」
自分たちはフライの支えがあることでSランクとして成り立っていた。それを薄々気付いていたミュアを除いて。
一方俺達。
生活のための買い物や、冒険への準備を終え、いざ冒険へ。
見渡す限り草原が続く雄大な平野を通った後ジャングルに突入。そこでオークやコボルトと何度か出くわした、そしてその大きいジャングルを抜け、数日ほど。
目的の場所へと到達。
「これが、海ですか。噂には聞いていましたが、とてもきれいで神秘的ですね」
「俺も、海を見るのはとても好きだ」
磯のにおいが充満している。このにおい、俺はどこか好きだ。
優しく全身に吹きかける海風。雲一つない晴天の空、地平線まで続く青い海。
俺たちがこれから行くのは、海底遺跡。この海の底にある遺跡だ。
しかし、そこに行くのにあたって一つだけ疑問がある。
「そういえば、海底遺跡ってことは海の中ってことだろ。呼吸とかどうすればいいんだ? 俺海で呼吸する術式なんて使えないぞ」
「それなら遺跡の領域に入れば大丈夫です。海水の中でも呼吸ができる特殊なフィールドになっています。そこに行くまでは、そこまで距離はありません。普通に潜れば大丈夫です」
そうなのか、よく出来ているな。
しかし、数日間の歩きの旅だけあってさすがに疲れた。フリーゼも旅に出た初日と比べて口数が減っている。
このまま疲労を抱えたまま遺跡に突撃するのは得策ではない。
それに他のパーティはまだ来ていない。
海、そして疲れを取りたい。となれば答えは一つだ。このために水着を買ってきていた。
「ちょうど誰もいないから、二人で海に入って楽しもうよ」
「海に入って、楽しむのですか?」
「そうだよ」
そう、海水浴をして楽しもう。
俺は以前のパーティー、雑用をする中で旅のスケジュールを組んでいた。
ただ闇雲に進んでいくだけでは仲間たちに疲労がたまってしまい、体力を消耗してしまう。
どんな時でもみんなが最大限のパフォーマンスを保てるように、移動する場所からどこで息抜きをして疲れを回復されるかも考慮していたのだ。
もちろんそんな配慮、以前のパーティーでは認められることはなかったが。
俺たちは各自近くにある森へと移動、着替えを始めた。
俺は二、三分で着替えを終える。フリーゼはまだ終わっていないようで、森の奥にいるようだ。今はそっとしておこう。
そして着替えを終え、海の前に立つ俺。
白い砂浜が広がるエリア。
これが海か、入ることができて俺は嬉しい気分だ。
「フライさん、準備はできました。そっちに行きます」