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通話が終了し、車内に沈黙が流れる。
「須藤はまだしも、なんで高野が行くんだ。先は見えてるだろ」
「そこはあたしも同感だけど。あの子なりに、財前さんの力になりたいと思ったんでしょ」
「ったく、余計な事しやがって。下手したら逃げられてるな」
「それか、警戒心が増してるかね」
「どう思う?」
「さあね。行ってみないことにはわからないでしょ。それより・・・」早坂さんが横目でわたしを見る。「やっぱり、連れてくるんじゃなかったわ」
「・・・用心します」それには、ふう・・・と溜め息だけが返ってきた。
車は次第に坂道をのぼって行く。街路樹を進み、信号の無い交差点を左折すると、広い駐車場が見えてきた。車のライトに照らされた木の看板に、【森林公園 静寂の森】という文字を確認する。
早坂さんはその近くに車を停めるた。ライトを消すと、辺りが真っ暗になった。
さすがにちょっと──「怖い?」
「・・・いいえ?」
「雪音ちゃん」
「車にはいませんよ」
「で、しょうね」
早坂さんに続いて、車を降りる。空気が澄んでるせいか若干、肌寒さを感じる。それに、静寂の森という名の通り、とても静かだ。
早坂さんは車のトランクから懐中電灯を取り出し、瀬野さんに渡した。見るからに小ぶりなのに、照射範囲が広い。
「雪音ちゃん」
わたしにもくれるものだと、手を差し出し──・・・「なんですかコレ」
「ん?ライトよ」
「いや、わかりますけど、なんで頭?」
「手が不自由だと危ないでしょ」
取り付けられた以上、自分では確認出来ないが、目が上を向く。
「角度調整出来るからね」
額についているライト部分を指でつまむと、上下に動いた。「なんか、わたしだけまぬけっぽいですね」
「あら、そんなことないわよ。あなたは何をしたって可愛いのよ」
自分のヘッドライトに照らされた早坂さんの笑顔は眩しいが、嬉しくない。
「工事現場に居そうだな」瀬野さんの意見が、正しい。
早坂さんはもう1つ、手に持っていた物をわたしに差し出した。「なんですか?」
「今日はちょっと肌寒いから、着なさい。大きいと思うけど」