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「あー、ごめんなさい。わたし今日はちょっと、先約があって」
「何よ先約って。早坂さん?」
なぜ、すぐにその名前が出る。「あー、まあ・・・」
「え、この前迎えに来てた彼?雪音ちゃんデートなの?」
「違います」
「雪音さん、彼氏いるんすか?」
「違うって」
「えー、雪音さんと飲みに行きたかったな」
可愛い事言ってくれるじゃないか。「ゴメンね。今日はどうしても、外せない用で・・・」
「まあ、デートならしょうがないわね」
「だから違うって」
「天然記念物は置いて、3人で行きましょうか。今日は飲むわよー!」
「一真くんゴメンッ。今度改めて飲みに行こ」
「・・・2人でですか?」
「ん?まあ2人でもいいけど」
「了解っす。約束すよ」
──弟がいたら、こんな感じなんだろうか。なんにせよ、可愛い。お小遣いをあげたいくらいだ。
頼むから、まだ来てませんように。
そう願いながら店を出たが、すぐに、イカつい車が目に入ってきた。
それだけならまだしも、車の後方に、デカいシルエットが2つ。
「あれ?早坂さん?と、もう1人誰かいるわよ」
「そうだね。じゃあわたしはここで」1歩踏み出し、後ろに引き戻される。
「誰よ」締め付けられた右腕が、痛い。
「早坂さんのお友達。ということで、また明日」
「ほら、こっちに来るわよ」
「えっ」──・・・ NO!来なくていいんですけど!
「こんばんは。雪音ちゃん、お仕事お疲れ様」
デジャヴ感が否めない。「・・・お疲れ様です。早坂さん・・・と、こちら、早坂さんのお友達の瀬野さんです」
さっさと紹介して去ろうと思ったが、春香がわたしより1歩前に出る。
「初めまして、雪音の友達の春香ですう〜」
またもや、デジャヴだ。春香の営業スマイルの前でも仏頂面を崩さない瀬野さんが、軽く会釈する。
「ごめんなさいねえ、この人、生まれつき愛想を持ち合わせてないのよ」
「いいんですよ。愛想がない男ほど、感情を露わにした時、燃え(萌え)ますから」
引き気味で、恐ろしいモノでも見るかのように春香を見る瀬野さんが、面白すぎる。
「・・・行くぞ」瀬野さんは足早にその場から居なくなった。