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店長の言う通り、一真くんは非常にのみ込みが早かった。ビールの注ぎ方やカクテルの作り方は、これまでの経験で教えなくてもわかっている。接客もスムーズにこなすし、周りをよく見ていて、率先して動いてくれる。
1度言った事はすぐに覚えるから、我々が負担を感じることもない。
なんというか、男版春香って感じだ。
「優秀ね」
一真くんが接客をするのを見守りながら、春香が呟いた。
「うん、わたしも思った。経験値だね」
「それもだし、元々頭良いのよ。イケメンだし」
「そこかい」
「凌さんの言うこと、嘘じゃなかったわね。くう〜、あれで学生じゃなかったら」
「やっぱそこかい。てか、バイトって女の子だと思ってた」
「あたしが店長に頼んだのよ。出来れば男にしてくれって」
「そーなの?」
「この前の客みたいなのもいるし、男がいるいないでは全然違うでしょ」
「まあ・・・ねえ」
「まあ毎日入るわけじゃないみたいだけど、これでだいぶ楽になるわね」
「ホントに」凌さんには申し訳ないが、店長に感謝だ。
「雪音さん、俺ホールやるんで、洗い物のほうお願いしていいすか」
最後の客を見送り、テーブルを片しているわたしに一真くんが言った。「あ、ホント?ありがと」量にもよるが、食器運びはなかなか重労働だ。
洗い物に回るわたしと春香の元へ、トレーに山積みの皿が届く。
「さすが男子。あたしらじゃ出来ないわ。落とさないようにね」
「大丈夫っす。任せてください」
次に一真くんを見た時は、全ての椅子をテーブルに上げ終わっていた。
「いや〜、男がいると違うねえ〜。頼もしいよ」もう1人の男は、いつものポジションでタバコの煙を充満させている。
「これまで女3人でしたからね、本当に助かりますよ」
春香の嫌味に、一真くんが笑う。「ここ禁煙じゃないんすか?」
「もっと言ってやって、一真くん。何年も言い続けてるけど伝わったことないの」店長はわたしの言葉通り、2本目のタバコに火をつけた。
「それよりさ、一真くんの歓迎も込めて、これから軽く飲みに行かない?」
「賛成!」挙手付きで即答したのは春香だ。「もちろん、店長のお〜〜?」
「だから、いつも奢ってるでしょ」
「いんすか?嬉しいっす」