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「用心します」
「用心って言うけど・・・」
「いいんじゃないか?中条は目も良いし、身体能力も高い。何より度胸がある。須藤なんかよりよほど頼りになると思うけどな」
「・・・瀬野」
「早坂さんは、わたしに協力してくれって言いましたよね。なぜ渋るんですか?」
「言ったわ。財前さんのために、あなたのような強い精神力を持つ人間が必要なのは事実よ。ただ、だからと言って危ないとわかってるところにあえて飛び込む必要はない」
「・・・それを言ったら、わたしは何も出来ないんじゃ」
「その通りだ」
「瀬野、ちょっと黙ってて」
「中条を巻き込んだのはお前だぞ、遊里。そのお前が、中条の意思を無視するのは道理にかなってないんじゃないか」
早坂さんは険しい顔のまま黙った。
「早坂さん、さっきも言ったけど、ちゃんと用心するので。・・・それに、何があっても、早坂さんが守ってくれるから大丈夫だと思ってます」
"あなたの事は、何があってもあたしが守るわ"
早坂さんの言葉だ。
早坂さんは目をパチクリさせると、気が抜けたように笑った。「負けたわ。・・・わかった、一緒に行きましょう」
わたしも安心して笑みが出る。「ありがとうございます」
「ただし!」険しい顔が再び。「絶対に1人突っ走らないこと。いいわね?」
「約束します」
「決まりだな。遊里、おかわりはないのか?」
「キッチンにポトフとキッシュが残ってるわよ」
「遊里、オメエも雪音には弱いんだな!ガッハッハ!」おばあちゃんが、早坂さんの腕をバシバシ叩く。
早坂さんは不満そうに息を吐いた。「そうなのよ。まったく、なんでかしらねえ」
瀬野さんは、皿に山盛りのポトフを持って帰って来た。もはや、ただの野菜盛りだ。「それで、いつ行く?早いほうがいいだろう」
「・・・明日、雪音ちゃんの仕事終わりに合流して行きましょうか。時間的にもちょうどいいわね。雪音ちゃん、大丈夫かしら?」
「はい、ヨロシクお願いします」出来れば店には来てほしくなかったが、言える身分ではない。
食事の後は、デザートに桃のタルトを頂いた。お腹がはち切れそうだったのに、ペロリと完食する自分が恐ろしい。その間、おばあちゃんは青唐辛子をポリポリと食べていて、見ているとタルトが辛く感じた。