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「瀬野さんは、その・・・座敷童子に会ったことあるんですか?」
「ああ、アイツの家に行けば必ず居るからな」
「可愛いですか?」
瀬野さんがみるみる怪訝な表情になる。傍から見たら、前の車を睨んでるみたいだ。
「中条、お前の座敷童子に対するイメージってどんなだ?」
昔見ていたアニメを思い出した。主人公の家に住みつく座敷童子。「オカッパ頭で、着物を着てて、小さな可愛い女の子」
何故か、さらに険しくなる瀬野さん。「オカッパと着物は合ってるが・・・なんにせよ、そのイメージは捨てて行ったほうがいい」
それから、約20分後、── その言葉の意味を知る事になる。ちなみに、玄関のドアを開ける前に、その建物自体に十分驚いている。
「おお!よぐ来たなあ!オメーが雪音が?」
出迎えてくれた、この小さな着物姿の──・・・「おばあちゃん?」
「ダッハッハ!おばーちゃんてか!オラァまだ、ピッチピチの96歳だべよ!」
開いた口が塞がらないとは、こういう事か。
オカッパ頭に、着物姿、小さい・・・そこまでは想像した通りだった。
「だから言っただろ。覚悟しろって」
「・・・いや!それは言ってません!」
「なんにせよ、これが座敷童子だ」瀬野さんは靴を脱いで上がると、逃げるようにいなくなった。
玄関に取り残されたわたしと、青唐辛子をカリカリ食べながら、ニコニコしているおばあちゃん。
── ・・・ 青唐辛子?
「オメエも食うが!?」
「・・・えっ」
「唐辛子は、好ぎが!?」
「あ・・・はい、好きですけど、そのままはあまり・・・」
顔ばかりに目が行って、おばあちゃんが手に持っていた小さな壺に気がつかなかった。その壺をわたしに向ける。
「ほれ、好ぎなの取れ。全然辛ぐねーがら」
「あ、そうなんですか。では・・・」壺の中には、大量の唐辛子が敷き詰められている。なかなか手を出しにくい光景だが、1番手前にある物を掴む。
「食え!うめーがら!」
「はい、いただきます」
一口かじって、仰け反った。身体中の毛穴から、一気に汗が噴き出る。
なんなんだこの食べ物は!いや、もはや食べ物じゃない。涙すら、出て来た。
「な?辛ぐねえべ?」
おばあちゃんは、目が悪いのか!
そんな笑顔で言われたら、頷く以外出来ない。