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「あなたは、その妖怪を"退治"出来るんですか?」

「・・・・・・え」

何も、答えられなかった。出来ると言ったら、嘘になる。出来ないと言っても、嘘になるのでは。わたしには、あのナイフがある。

「いえ、なんでもないです。聞かなかったことにしてください」

「あのっ、わたしの知り合いなら出来ます」

「・・・本当に?」

コクコクと頷く。「だから、あなたはここには近づかないでください」

彼女は眉間にシワを寄せた。「嫌です。黙ってるなんて出来ない」

「・・・あなたも、お母さんみたいに襲われるかもしれないんですよ」

「その時はその時よ。別に、どうなったっていい」

度胸があるというか、自暴自棄というか──。

「とにかく、わたしの知り合いに連絡してみるので、それまでは絶対、ここには近づかないでください。"事"が済んだら、ちゃんとあなたにも報告しますから、連絡先教えてもらってもいいですか?」

わたしの提案に、彼女はすぐに返事をしなかった。難しい顔で考え込み、一言だけ、わかりましたと。
納得していないのは、わかった。でも、これが本当に妖怪の仕業なら、彼女を危険な目に遭わせるわけにはいかない。

彼女が去った後、わたしはしばらく川を眺めていた。穏やかに流れる水面に太陽の光が反射してキラキラしている。こんなに綺麗な川に、いったい何が──?





その日の夜、早坂さんにメールを入れると、すぐに電話がかかってきた。
今日の事を出来るだけ詳しく説明したいが故に、冷凍ストックの件(くだり)からグダグダと長くなってしまったが、早坂さんはうんうんと聞いていた。

「そうねえ・・・実際に見てない分、確信は持てないけど、その子の言う事が本当なら可能性はあるわね」

「ですよね。最初はおかしい人だなって思ったんですけど、話を聞いてるうちにそうとしか思えなくなってきて」

「よく話しかけたわね」

言われて、気づいた事がある。たぶん、早坂さん達に会う前の自分なら、気にはなったとしても、声はかけなかったと思う。

「・・・気づいたらそうなってました」

電話越しに早坂さんが息を吐くのが聞こえた。「あなたの勇気は認めるけど、もう少し危機感持たなきゃダメよ」


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