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「化け物って、言ってましたよね」

「・・・それが何か」

「出来れば、詳しく聞かせてほしいなと・・・」

彼女は奇妙な目でわたしを見た。「え?なんで?」

わたしの目は、泳ぐ。「いえ、ちょっと、興味があるというか・・・」

「面白がってます?お願いだから、1人にしてください」

──性格上、そう言われると引きたくなる。でも、彼女の叫んでいた言葉を追求したい自分がいる。

「もしかしたら、力になれることがあるかもしれないので・・・その、"化け物"の話を教えてくれませんか」

「・・・は?力にって・・・ていうか、あなた誰ですか?」

いや、本当に、ごもっとで。こうなると、わたしのほうが怪しい気がしてきた。

「通りすがりの者です・・・が、決して怪しい者ではありません。本当に」言葉のチョイスが、怪しさ倍増だ。「さっき、お母さんをあんな目に合わせたって、言ってましたよね」

ピクッと反応した彼女の顔が、みるみる曇っていく。そして、フッと鼻で笑った。「どうせ、信じないし・・・誰も」聞こえるか聞こえないかの呟きを、わたしは聞き逃さなかった。


目の前の人物が誰かも知らないし、この状況だって理解出来ていない。でも、その言葉だけは、聞きたくなかった。

「言ってみて。正直、信じるか信じないかはわからないけど、ちゃんと最後まで聞くから」

多少なりとも、誠意は伝わったんだと思う。彼女はまた、「どうせ信じないと思うけど」を前置きとして、事の起こりを話してくれた。


──2ヶ月程前、彼女は母親と2人でこの川岸を散歩していた。すると突然、母親が悲鳴をあげ、次の瞬間には、何かに引きずられるように川に落ちた。すぐに自分も飛び込み、母親の腕を掴んで引き上げようとしたが、明らかに様子がおかしく、見えない何かが、母親を水の中に引きずり込もうとしていた。
その時近くにいた男性に母親は助けられ、大事には至らなかったが、それ以降、悪夢にうなされ眠れない日々が続き、精神を病んで入院した
そうだ。

母親は言い続けていた。何かに足を掴まれ、首を絞められたと。その証拠に、助けられた母親の首には所々、アザが残っていた。
でも、その話を信じる人は誰もいなかった。





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