18
今日は平日の午前中という事もあってか、人通りはまばらだった。
ウォーキングをしているおじさんに、すれ違いざま、こんにちはと声をかけられる。彼はいつもすれ違う人みんなに声をかけていて、ここを通る度に必ずと言っていいほど見かける。
わたしの中で、24時間歩き続けている説が浮上している。
歩きながらふと目に入ったのは、川岸に佇む1人の女性。
何を、やっているんだろう。いや、何もしていないから目につくのか。
仁王立ちになり、動かず、ただ川を見ている。その足元には、大きなボストンバッグのような物が1つ。
歩きながら彼女を見ていたが、その足が思わず止まった。
彼女は突然、バッグに両手を突っ込み、その中身を川に向かって放り投げた。白い粒子状の物が宙を舞う。
──なんだなんだ?
そしてまた、繰り返す。2回、3回。
頭を過ったのは、海外ドラマで観た、トイレに"白い粉"を流すシーン。
──まさか・・・。
いやいや、こんな白昼堂々やるわけないだろう。テレビの見過ぎだ。
「出てこい!いるのはわかってる!」
ギョッとした。叫んだのは、その彼女だ。そしてまたバッグの中身を川に向かって放り投げる。
ちょっと、危ない人か ──?見なかったことにして、歩き出す。
「お前が母さんをあんな目に合わせた!出てこい化け物!」
再び、止まる足。少しだけ、鼓動が早まる。
いや、そんなはずはない。考えすぎだ、自分。
昨日の事があったから、敏感になっているだけだ。さあ、スーパーに行かなくては。
自分の意思とは裏腹に、わたしの足は彼女へと向かっていた。
1メートル程後ろまで近づいたが、彼女は自分に必死で、わたしに気づかない。一連の動作を見届けて、声をかけた。
「あの・・・」
「ひゃっ」彼女はビクッとしてこちらを振り向いた。激しく動いていたせいで息は切れ、顔が紅潮している。
「驚かせてすみません」
「な、なんですか」彼女はバツが悪そうに顔を背けた。おそらく、わたしと同世代だ。
「何、してるのかなって、思いまして」
「別に、なんでもないです・・・頭がおかしいと思ってるんでしょうけど、お気になさらず」
やっぱり、彼女は"まともな人"だ。むしろ、頭が良さそうに見える。