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「ねえ〜ん、行こーよ行こーよ〜ん」
「・・・可愛こぶる相手間違ってない?」
「春香、さ〜み〜し〜い〜」
「やめてくれ、耳がおかしくなる」
「俺も、さ〜み〜し〜い〜」
2人を冷ややかに見た。アル中コンビめ。「てか、行かないって一言も言ってないですけど!」
「あそ、じゃあさっさと片付けて行きましょ。待っててね〜、あたしの愛しき麦男〜」
毎度思うが、コイツの本性を客に見せたい。
餃子が食べたいという春香の要望で、わたし達は深夜までやっている餃子の専門店にやってきた。ここも店長の知り合いがやっているお店で、日頃からよくお世話になっている。
カウンターだけの小ぢんまりとしたお店だが、餃子の味は最強レベルだ。
「お疲れ様ー!」乾杯するなり、春香はジョッキのビールを半分まで飲み干した。その時間、わずか数秒。
「ぷはー!生き返った!」
「愛しの麦男くん、もっと大事にしなくていいの」
「いいの、麦男はいっぱいいるから」
「相変わらず、いい飲みっぷりだね春香ちゃんは」カウンター越しに笑っているのは、店長の江口 凌(えぐち りょう)さん。いつ会っても温厚で、ザ・マイペースといった感じだ。店長とは古い付き合いらしいが、類は友を呼ぶというのはこういう事か?
「春香ちゃんはビールのために働いてるからね」うちの店長は、わたしと同じくらいのペースでちびちびとビールを飲んでいる。
「というか、生きている?」わたしの訂正に店長は深く頷いた。
「凌さん、おかわり」
「はやっ!」春香以外の3人でハモった。
「だって、店長の奢りだもの。遠慮しないで飲みましょ」
「・・・それって普通、俺が言うことじゃ?」
「そう思います」
凌さんは笑いながら2杯目の彼氏を春香に渡した。「達はいいなあ、可愛い子2人に囲まれて」
「それって、今の状況?だとしたらちょっと怖いかも。いろんな意味で・・・」わたし達に挟まれて座っている店長は心なしか肩が寄っている。
「今もだけど、仕事でもさ。やっぱり女の子が居ると華やかだよね。俺のとこはたまに甥っ子が手伝いにくるくらいだから、羨ましいよ」