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お母さんは次にくる言葉を待ってる。
どう伝えればいいのか、何から言えばいいのか、わからない。だから、本能に従った。
「幽霊が見えるの」
お母さんの反応は想定内だった。「幽霊?何が?なんのこと?」
「本当だよ!未来ちゃんには見えなくて、その子が未来ちゃんを引っ張って、怪我させたんだよ!」
お母さんはキョトンとしている。「ちょっと待って雪音、何言ってるかわからないんだけど。その子?」
「耳が生えた子!前に公園で見た子と同じだった!」
お母さんは眉間に皺を寄せ、わたしを凝視した。「お母さんには見えなかったでしょ!?未来ちゃんにも見えないの。雪音にしか見えないんだよ!」
冷たい手が、額に触れる。「熱・・・ないわね」
「お母さん本当だよ!未来ちゃんの首にこうぶら下がって」ジェスチャーであの子の動きを真似る。「雪音は助けようとしたんだけど、未来ちゃんはそのまま落ちちゃって」
「ストップストップ!」大きな声に、ビクッと肩が動いた。「雪音、さっきから何言ってるの?お母さん、全然わからない」
「だから、未来ちゃんが怪我したのは雪音のせいじゃないんだよ!でも、未来ちゃんはそう思ってて・・・」
お母さんの顔が険しくなる。「先生が電話で話があるって言ってたけど、そのこと?」
「・・・たぶん」
お母さんはわたしに目線を合わせた。「未来ちゃんが言ってるの?雪音が怪我をさせたって?」
正確には、ちょっと違うが──「雪音が引っ張ったって思ってる」
お母さんはふうと息を吐きながら、ダイニングテーブルの椅子に腰掛けた。
沈黙が怖かった。お母さんは、どう思ってるの?
「お母さんも、雪音のせいだと思ってる?」
お母さんは強い眼差しでわたしを見た。「そんなわけないでしょ。雪音がそんなことしないのはわかってる。ただ・・・なんで未来ちゃんはそんなこと言ったのかしら」
──だから、何回も言ってるのに。お母さんは、わたしが言ったことを無かったことにしてる。「あの子が見えないから・・・」