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「未来ちゃんにも確認したらね、そうだって言ってた」顔を上げれず、わたしの反応は肯定しているようなものだ。
「・・・違います」
先生がわたしの手に触れた。両手で優しく包み込む。「雪音ちゃん、そのあと近くの人に助けを求めたんでしょ。凄く立派なことよ。でもね、本当のことを言わないのは、立派とはいえないんじゃないかな?」
再び押し寄せてくる、絶望感。
本当のことって何?何が本当で、何が本当じゃないの。頭がグルグルする。吐き気がする。
わたしは、何?
─── 悪いのは、わたし?
足が、勝手に動いていた。
お母さん。お母さん。助けて。
どうやって、家まで辿り着いたのか覚えていない。どの道を通って、誰と会って、何を思いながらここまで来たのか。
お母さんは、キッチンに立っていた。
その後ろ姿を見て、涙が溢れた。
助けて── 「お母さん・・・」
振り返ったお母さんは、すぐに異変に気づいた。「雪音?」わたしの元に駆け寄り、膝をつく。「どうしたの?」
涙なのか汗なのか、お母さんはわたしの顔をエプロンで拭いた。「どうしたの?何かあった?」
「お母さん・・・雪音、何もしてないよ」
「・・・どういうこと?なんのこと言ってるの?」
涙が止まらなかった。全ての感情が涙と共に溢れ出た。お母さんはわたしを抱きしめ、よしよしと頭を撫でた。お母さんの匂いに包まれ、気持ちが安らいでいく。
わたしが泣き止むのを待って、お母さんが言った。「雪音、何があったの?」
全部、言ってしまおうと思った。わたしが知る真実を。お母さんなら信じてくれる。
お母さんはわたしの返答を、辛抱強く待っている。
「おか・・・」言いかけた時、家の電話が鳴った。
「ちょっと待ってなさい」わたしの頭にポンと手を置き、電話を受ける。
「あ、いつも雪音がお世話になっております」その言葉を聞いて、すぐに誰かわかった。先生との電話で、お母さんが必ず言う言葉だ。
はい、はいと頷き、お母さんは静かに受話器を置いた。「今から、先生が来るって」
走って逃げてきた。わかってる。家に来た先生は、さっきと同じことをお母さんに言うんでしょ。
お母さんに駆け寄り、エプロンをギュッと掴んだ。「お母さん、雪音ね、雪音ね・・・」