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「ちょっと・・・泣いてるの?どうしたの!?」
「未来ちゃんが・・・」
未来ちゃんのお母さんは、わたしが持っているハンカチを見ると、みるみると顔が蒼くなった。私の腕をグッと掴む。
「未来に、何があったの?」
「ジャングルジムから落ちて・・・血が出て・・・」
「どこから血が出てるの?」
「あたま・・・」
未来ちゃんのお母さんの行動は早かった。テーブルから携帯を取り、そのまま玄関へと走る。
「あっ、待って!これっ・・・」おじさんから頼まれた紙を渡そうと追いかけるが、もう家を出ていた。わたしも後を追いかける。
玄関前の段差で1度派手に転んだが、痛みは感じなかった。すぐ立ち上がり、走った。
公園に着くと、入り口に救急車が停まっていた。未来ちゃんの周りを数名の救急隊員が囲んでいるのが見える。
わたしが近づくと、さっきのおじさんに肩を掴まれた。
「大丈夫だよ、今診てもらってるから。ここで待とう」
その様子を、未来ちゃんのお母さんが隊員の後ろから心配そうに見ている。
しばらくして、未来ちゃんはタンカーに乗せられた。頭には包帯が巻かれ、もう泣き止んでいる。ゆっくりと、救急車へ運ばれていった。
未来ちゃんのお母さんはおじさんの元へ来ると、何度も何度も頭を下げて、お礼を言っていた。
「雪音ちゃん、あなたはお家に帰りなさい。いいわね?」
わたしは、頷くしか出来なかった。
サイレントと共に去っていく救急車を、見えなくなるまで目で追いかけた。
頭に何かが触れ、見上げると、おじさんがわたしに微笑んでいた。「大丈夫だよ。おじさんの友達はね、子供の頃、もっといっぱい血が出たんだけど、ちゃんと元気になったから。キミの友達も元気になるよ」
その言葉を聞いて、凄く安心した。
「それより・・・」そう言うと、おじさんはわたしの手からハンカチを抜き取り、近くの水道へ向かう。戻ってくると、濡れたハンカチでわたしの手を拭いてくれた。そして、ある事に気づく。「膝から血が出てる。転んだのかい?」
「あっ・・・」必死で、忘れていた。傷を見て、今更痛みが湧いてくる。
おじさんはそのハンカチを傷のところに優しく巻いてくれた。「キミは勇敢な子だね。このまま帰りなさい」
言葉の意味はわからなかったけど、おじさんの優しい笑顔に、ちょっと泣きそうになった。「・・・ありがとう」