アデルとオスカーの商会
結婚を機に、アデルとオスカーは商会を立ち上げた。
「ちょうどよい具合に、客層が空いていたわね」
「そうだね、アデル。下位貴族や金持ちの平民向けの商売をしているところが、まだ無くてよかった」
この国では、平民向けの大衆受けする商品を沢山扱っている商会と、貴族向けの高級な商品を扱っている商会はある。
大衆向けの商品を扱う最大手が、エミールの実家であるカルローニ伯爵家の商会だ。
貴族向けの商品を扱う最大手は、アデルの実家であるキャラハン伯爵家である。
「私は学園時代に、下位貴族から上位貴族だけでなく、王族まで幅広い人脈を作ったの。そのなかで、下位貴族だけどお金を持っている家や、平民だけどお金を持っている家の困りごとを聞いていたのよ。それで、これは商売になるな、とずっと思っていたの」
「アデルは凄いね」
「フフフ、そんなことはないわ」
アデルが学園時代に作った人脈は、即お金に繋がる。
それについては、キャラハン伯爵家の商会で証明済みだ。
しかし高位貴族についてはキャラハン伯爵家の商会に富を与えたが、他の人脈については手付かずであった。
それについて歯がゆい思いをしていたアデルは、自らの商会を立ち上げたことで、今までの借りを返す勢いで動き始めた。
お金を持った下位貴族が好みそうな物を揃えては売り込み、そのほとんどが功を奏した。
だからアデルとオスカーの商会は、最初から利益を上げ続けることができたのだ。
「それにしても平民があんなものを欲しがっていたとは」
「でしょ? 聞いてみないと分からないものよね」
アデルはお金持ちの下位貴族からの繋がりを辿って、お金持ちの平民へと商売相手を広げていった。
平民はお金持ちであっても、実用的なものを好んだ。
「だよね。平民が高価な掃除用具とか欲しがるとは、想像もできなかったよ」
「ふふ。それは私も意外だったわ」
金持ち平民向け商品は想像通り、見栄を張るための派手な見た目の商品も人気が高かったが、地味ではあるが使い勝手がよかったり、長持ちする商品への人気も高かった。
「下位貴族が安っぽい成金趣味の品物を嫉妬よけに使っている、というのも意外だったよね」
「ええ、そうね」
見た目だけ派手で、さして価値のないような商品についても人気が高い。
しかしこれに関しては、これ見よがしに置いておくことで、あえて相手にバカにさせて嫉妬よけするという目的で使っている下位貴族もいる。
「下位貴族は色々と気を使って大変ね」
「ああ、我が家も大変だったよ。嫉妬除けの成金趣味の品とかは置いてなかったけど」
「ふふ。クレマン子爵家は下位貴族とはいえ、長く商会を営んでいるのは有名だから。嫉妬除けは要らないかもね」
とはいえ、一番需要があるのは正当派の高額商品だ。
利益は高いがリスクも高い高額商品については、紹介という形で実家であるキャラハン伯爵家の商会に任せ、実家に恩を売ることも忘れない賢い商売を、アデルは心掛けた。
「でもお金持ちにターゲットを絞ってしまうと、私たちの商会の成長できる伸びしろは限られてしまうわ」
「ああ、そうだね。ここは中流の平民もターゲットに加えてはどうだろうか」
「そうよね。私たちは平民みたいなものだし」
こうしてアデルたちの商会は、平民でも手に取りやすい商品を武器に、販路を王都から地方へと伸ばしていく。
「中流向けなら平民向け商品といっても、下位貴族の裕福でない層にもアピールできるかもしれない」
「そうね。そうかも」
二人はヒット商品が出ても、そこであゆみを止めることなく動き続ける。
平民に受けた商品を下位貴族向けに売り出したり、下位貴族に受けた商品を平民向けに作り替えて売ったりと工夫を重ねた。
やがてアデルとオスカーの商会は、夫婦の仲の良さと商品の良さで評判となる。
対してエミールの実家であるカルローニ伯爵家が所有する商会は、アデルたちの商会に客を取られて徐々に衰退していった。