アデルの結婚
ほどなくアデル・キャラハン伯爵令嬢は、オスカーの妻となった。
結婚話はトントンと進み、秋の涼しい風が吹くころには、アデルとオスカーは華やかだが清楚な衣装に身を包んで神殿にいた。
アデルは銀刺繍の施されたレースをたっぷりと使った白いドレスに、同じレースを使ったヘッドドレスと手袋を身に着けていた。
その装いは彼女によく似あっていて、オスカーは眩しそうにアデルを見ては、照れくさそうに視線を外して再びうっとりと見惚れるという行為を繰り返していた。
オスカーは白のタキシード姿で、これまたよく似合っていた。
アデルは彼の姿を盗み見ては頬を赤く染める。
その場に集まった二人に近しい者たちは、そんな二人を微笑ましく見守っていた。
その中にはアデルの友人であるレイチェルもいて、隣に立つ愛しい人と目配せを交わしたり、膨らんで目立ち始めたお腹を時折さすったりして、幸せそうな笑みを浮かべていた。
キャラハン伯爵は隣に夫人を伴って、娘の晴れ姿を眺めていた。
爵位も財産も持たないオスカーとの結婚は、キャラハン伯爵にとっては複雑なものがある。
それでも娘の嬉しそうな笑顔を見れば、この結婚を認めざるを得ない。
将来の希望しか持たない若い二人の未来には不安がある。
「でも、困ったときには助けてあげるのでしょう?」
キャラハン伯爵の隣では、伴侶であるアデルの母がフフフと笑う。
「それはそうだけど……私を頼るかねぇ? あの娘が」
「フフフ。頼るのではなく、取引を持ちかけるでしょうね」
「だよな?」
複雑な表情で言う夫を見て、夫人はフフフと笑った。
よく晴れた秋の日。
アデルとオスカーの結婚式はつつがなく終わり、披露宴は和やかに行われた。
若い二人に財産はない。
だが希望だけはたっぷりと光輝いていた。