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わたし達の通う学校には遊具が少ないせいもあって、その公園にはいつも近所の子供達が集っていたが、その日は誰もいなかった。
ちょうどお昼時というのもあったのか、わたしと未来ちゃんは貸切状態の公園をここぞとばかりに堪能した。

シーソーから始まり、ブランコのジャンプ競争。鉄棒では、どっちが長くぶら下がっていられるかの勝負。滑り台は、登っては滑るの繰り返しで、追いつかれたほうの負けだ。

最終的に、全部わたしの勝ちだった。
正直言うと、力の半分ほどしか出していなかった。
小学校に入学してからの体育の授業や、運動テストは、人に負けたことがない。
足の速さに関しては、男女問わず学年1位だ。

未来ちゃんもそれはわかっていて、それでも、負けたら悔しいのが子供だ。

未来ちゃんの提案で、最後はジャングルジムのてっぺんに最初に登ったほうが勝ち競争が開催された。

スタート地点は、ジャングルジムから1番離れた砂場。

よーいドンでスタートを切ったたわたし達は、ほぼ同時にジャングルジムに辿り着いた。

─── あれ・・・? わたしのほうが早いのに?


1段2段と、リズミカルにかけ登る。5段目に足を乗せ、頂上に手をかけたのは、ギリギリわたしだった。


「あともうちょっとだったのにぃ〜〜」悔しそうな未来ちゃんは息絶え絶えだ。

「やった〜」喜んで、自分も相当息が切れていることに気づいた。
── おかしいな、いつもこれくらいじゃあ何ともないのに。

「あ〜あ、やっぱ雪音ちゃんには勝てないなぁ・・・」未来ちゃんは向き直り、頂上の鉄パイプに腰掛けた。わたしも真似をする。

そして── 気づいた。

足に"いる"、何か。人間、あまりに驚くと声って出ないんだ。

「だれ?」その時のわたしは、意外と冷静だった。いや、わかっていなかったからか。

「ん?だれ?なにが?」

わたしは、わたしの左足にしがみついている子を指差した。「この子」

未来ちゃんはわたしの足を見て、首を傾げた。「この子?」

「うん、ほら、見て」

「え?誰もいないよ?何言ってるの?」


その時ふと、お母さんを思い出した。
"誰もいないじゃない。何言ってるの?"あの時と同じだ。お母さんと同じで、未来ちゃんにも見えていない。
それと同時に気づいた。——この子、あの時の子だ。膝丈の赤い着物に、大きな耳。近くで見ると、とても身体が小さい。

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