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第二十三話 あの声は

「おはようございます! ミツミさん!」
「はよ〜」

 朝っぱらから元気がいいヒューノバーに陽の気を感じ眩しく思いながらゆるく挨拶を返した。
 現在時刻十時半。出掛ける時間としては普通なのではなかろうか。

「今日はショッピングに美味しいもの食べて観光しましょう! さ、行きましょう」
「この服変じゃあないかな」
「大丈夫ですよ。よくお似合いです」

 結局ミスティから押し付けられた服ではなく自前のワンピースを着たがヒューノバー目線からもおかしくはないとのことで安心する。総督府の出口まで歩きつつ、今まで通らなかった場所なども通り外へ向かう。

「あ、これ渡しておきます」
「ん? 腕時計?」
「型のデバイスですね。財布とか、一応通話機能とかありますから、はぐれた際に連絡取れるように」

 ヒューノバーに左手首に巻いてもらう。一応スマホなどと同じ扱いになるらしい。盤面をタップすると空中に透明な画面が浮かび上がった。これぞSFという感じがする。

 色々いじくり回しつつ出口に辿り着く。出口は自分の生体認証でパスになっているらしく、これからも外に出る時は手ぶらでもいいらしい。ひとりで出る機会はあるのか謎ではあったが。

「改めて、総督府って大きいねえ」

 総督府の門までやって来て後ろを振り返るとかなり大きな建物だ。居住区だったり色々な局が入っているのだし当たり前ではあるが、改めて大きさに感心する。

「まあこの国の中枢ですからね。あ、注意事項なのですが、今現在ミツミさんは言語補助デバイスをお使いですよね」
「ああ、うん」
「外ですと付けている方が少ないので、なるべく自分から離れないようにしてください」
「そっか私の言葉、日本語だもんな。なるべく離れないようにするよ」

 言語補助のデバイスは外だと着けているヒトは少ないらしい。私には理解できても相手側には伝わらない。ほぼ現在の統一言語を話しているのだろうし、仕方のないことではあるだろう。

「さあ、最初は服を買いましょうか」
「どこに行くの?」
「ブティックが集まっている商業施設にでも。一応ミスティにも確認を取ってそこなら問題ないとは聞きましたから」

 自分女性の服にはそこまで詳しいかと言われると微妙なので、とヒューノバーは頬をかきながら苦笑いをする。ミスティのお墨付きなら問題ないか。

 商業施設までの道すがら、街の人々の様子を観察する。やはりほとんど獣人だ。人間も居ないことはなかったが、獣人の割合の方が多い。

「人間は外国人感覚って言っていたけれど、あながち間違いでもないんだねえ」
「そうですね。悪目立ちすることはないですが、あまり歓迎されない場所もありますから気をつけてください」
「まずそんなところ行かないとは思うけどね」

 商業施設についてミスティのおすすめの店に入る。何というか……。

「うう、なんかコスプレくさいよ」
「そうですかね?」

 この惑星のヒトからすれば普通の服なのだろうが、私の感覚からすると若干コスプレ臭が漂う。この店に着く前に他の店も流し見したが、どこも大して変わらない感じだった。

 並べられている服を見ていくが、私はあまり服に対して冒険心はないのだ。地球にいた際の私服はシンプルなジャケットとかワンピースとか、柄シャツとかそんなものだ。だがあるものでどうにかするしかないのなら、馴染むために勇気を持って服を選ぶべきか。

 並べられている服を見ていると店員に話しかけられた。茶色い兎の可愛らしい獣人だ。

「何かお探しですか〜?」
「あ、ス」

 コミュ障を発揮している場合ではないが、思わずコミュ障語録が出てしまった。ここはプロに任せるべきかとヒューノバーに通訳してもらう。

「この方、こちらに越して来たばかりで私服をあまり持っていないのですが、流行りのものとか何点か見繕ってもらっても?」
「はい、大丈夫ですよ。好みなどありますか? あ、今の服レトロ調のワンピースですし、落ち着いた感じがいいですかね」
「どうします? ミツミさん」
「落ち着いたのと、一応流行り物何点か」

 ヒューノバーに通訳してもらいながらトップス、アウター、ワンピース、パンツなど何点か見繕ってもらう。

 会計をしてからワンセットタグを外してもらい服を着替える。シンプルなTシャツにオーバーサイズ目のジャケット、スキニーパンツに着替える。あ、このパンツ尻尾用の穴空いてるな。

 外に出るとヒューノバーがやんわりと笑ってお似合いです。と言ってくれた。……少々嬉しい。

「このジャケットコスプレ感あると思ったけれど、着てみるとあまり気にはならないな」
「まあ流行については慣れだと思いますよ。皆着ていればそう気にならなくなって来ると思います」
「それもそうか」

 その後は下着屋や靴屋などを巡って他のアイテムも集める。流石に下着屋はヒューノバーは遠慮して私ひとりだったが、腕時計型デバイスの翻訳アプリを使って自動採寸をしてもらってなんとか買うことが出来た。未来ってすげー!

「買い物あらかた済んだし、今度はご飯食べに行こうか」
「和食食べたいって前言ってましたよね。行きましょう」

 街中に出てヒューノバーの隣を歩く。たまに目線が来るな〜と思いつつも、田舎で外国人見つけた時の感覚なのだろうかと考える。いや首都でその感覚を持つのもどうなのだろうか。なんて思いながらも飲食店に着いたらしく、中に入る。

 席に通されて座るとヒューノバーがショッパーの数々を横の席に置く。よく買ったな。
 何があるかな〜とメニューを開くと和食家庭料理の数々。くぅ〜求めていたのはこういう飯です。

「あ、鯖の味噌煮いいな……」
「自分唐揚げ定食にします」
「ちょっと待ってね。……あ〜、肉じゃが、あ〜、……鯖の味噌煮定食で」

 ヒューノバーに注文してもらってから今後について話し合う。

「観光地って言うと何があるの?」
「無難なところですとウィルムルタワーとかですかね。千メートル程度ですが、街を見渡せますよ」
「千メートル……ちなみに一番高いタワーって何メートルあるの」
「他国に二千メートルありますね」
「たっか。うーん、タワー登ってみようか?」
「行きましょう行きましょう。自分高いところ好きですから」
「馬鹿と煙はなんとやら……」
「自分、馬鹿では」
「冗談だよ」

 その後食事が運ばれて来て久々に食べた家庭料理和食に舌鼓を打つ。美味い、こういうのでいいんだよこういうので。

 ヒューノバーに会計をしてもらい店を出て高層タワーを目指すために地下鉄に向かうことになった。

「地下鉄ってあるんだね〜。私の国にもあったけれど」
「運転は自動操縦ですので時間に狂いもあまりないんですよ」
「はああ〜自動操縦。便利ねえ」

 なんでも車や飛行機などもほとんど自動操縦なのだそうだ。緊急時のための手動操縦もあるらしいが滅多に使われることはないらしい。車道に走る車を見ると運転席に当たる席に座るヒトはハンドルを握っていないヒトがほとんどに見えた。便利なものだ。

 地下鉄の入り口にたどり着きエスカレーターで降りてゆく。ちょっとお手洗いに行ってきてもいいか。と聞いてヒューノバーの元を離れた。女性用トイレに入ると、私は後ろからがつん、と頭を殴られ、一瞬意識が飛んだ。

 気がつくと床に倒れていた。誰かが私の足を引きずっている。逃れようともがくが背中を思い切り踏まれて息が詰まる。

 誰だと顔を見ようと身を捻ると、犬の獣人がにやけながら私を踏み潰していた。逃げなければと頭に警鐘が鳴る。だがどうやって。

 恐怖が身を包んだ時、涼しげな女性の声が聞こえてきた。

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