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第107話 揺らぐ『決意』

 かなめのスクーターはそのまま国道を司法局実働部隊の隊舎に乗り入れた。そこで強引に誠をスクーターから引きずり下ろしたかなめはそのまま足をシュツルム・パンツァーが置かれている格納庫に向けた。

「やっぱり連れ戻して来たんすね、西園寺さん。さすがですよ」

 本部のシュツルム・パンツァーハンガーには相変わらず三機のシュツルム・パンツァー05式が固定されていた。強引に連れてこられたことに何か一言でも口を挟もうと思っていた誠の前で整列していた整備班員の前に立っていた島田がそう言って笑った。

「オメエの好きなメカだぞ。理系大学での技術屋なら胸が躍らないか?」

 かなめは先ほどまでの殺気を消してにこやかに笑うと、憮然とした表情の誠に向けてそう言った。

「別に……僕が好きとか嫌いとかもうどうでもいいじゃないですか。もう僕には関係の無い話です」

 不服そうに誠はそう言った。かなめに無理やり腕を引っ張られてきた誠は右腕のしびれを気にしながらオリーブドラブの東和陸軍標準色のカウラの機体を見上げた。

「カウラさんの機体なら神前でもなんとか動かせますよ……姐御のにはシートがちっちゃくて乗れねえし、西園寺さんのは脳と直接リンクするデバイスが必要なんで生身じゃ乗れませんけど」

 島田は感慨深げに05式を見上げた。

「カウラは元々自分の機体を自分の専用機って思ってないからな……乗ってみるか?実際に」

 にこやかに笑いながらかなめは誠唐突にそう言った。

「え?良いんですか?クバルカ中佐の許可とか必要なんじゃ無いですか?」

 かなめの提案に誠は少しばかり心を動かされた。確かに誠にはここに来てからシミュレータのコックピットに腰かけたことはあったが、実機に乗った経験は無かった。島田はニヤニヤ笑いながらかなめに目を向ける。かなめはわざとらしく咳ばらいをした。

「叔父貴に許可は取ってある。この機会を逃したら一生シュツルム・パンツァーのコックピットに乗る機会なんて無いぞ」

「そうだぞ!巨大ロボは漢のロマンだ」

 二人の雑談を聞きながら誠は目の前の鉄の巨人を見上げた。決して量産されることの無い失敗作『05式』。しかし、その重シュツルム・パンツァーならではの重厚なフォルムが誠の心を動かしているのは確かだった。

「これと同じ機体が来るんですね……僕が乗るはずだった機体……」

 辞めるのはコックピットを覗いてからでもできる。意思の弱い誠は抑えきれない好奇心からそう口走っていた。

「なるんだよ!これはオメエの機体だ!アタシが決めた!」

「それは西園寺さんの権限じゃ無いでしょ?それにこの『05式電子戦特化型』は専門の訓練を受けたパイロットじゃなきゃ扱えませんよ。そんなパイロットうちにはカウラさんしかいません」

 明らかに一人突っ走っているかなめに島田が茶々を入れる。

 誠は恐る恐るそのままコックピットに上がるエレベータに乗り込む。同乗したかなめがそれを操作してコックピットのところまで上がった。

「凄いだろ?燃えてくるだろ?」

 かなめの口調はいつものどこかひねくれたものとは違って物凄く素直なモノだった。

「燃えるってのは……そこまで熱くなる質じゃ無いです。でも凄いのは確かです。開きます?コックピット」

「ちょっと待てよ……島田!」

「分かってますよ」

 島田がカウラの05式の足元にいる技術部員に目配せするとコックピットのロックが解除された。

「メカですね……」

 誠はそう言いながら分厚いコックピットの分厚い装甲板の間に開いた隙間に体を押んだ。

「全天周囲モニター……シミュレーターと同じ構造なんですね」

 狭苦しいコックピットに大柄な体を押し込みながら誠はその中を見回した。

「決まってんだろ。それじゃなきゃ訓練の意味ねえだろうが!うちのシミュレータは05式のコックピットを完全に再現している」

 思わず出た誠のため息にかなめは上機嫌でそう言った。

「こいつはさっき島田が言ってたように『05式特戦甲型電子戦仕様』って奴だ。カウラは小隊長だから通信機能が充実した機体に乗ってるわけだ。しかも、指向性ECMよる電子戦装備のおかげでこいつのECMの直撃を食らえばシステムにマニュアル要素の無い機体は即スクラップだ……」

 かなめの言葉を聞きながら誠はレバーや操作盤を眺めた。以前誠が使ったシミュレータに有った見たことのない装置の代わりに電子戦関連の物と思われるモニターとレバーが並んでいる。

「東和のお家芸の『電子戦』ですか……この機体は同盟司法局の持ち物じゃないんですか?よく東和宇宙軍が配備を許可しましたね」

 誠は少し嫌味を込めてそう言ってみた。

「うちは『軍事警察機構』なんだ。警察任務に必要なら東和に断る理由はねえよ。第一、東和の国是は『中立不可侵』だ。その理想と合うんなら悪魔にだって技術を売り渡すだろうな」

 そう言ってかなめは満面の笑みを浮かべた。

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