護衛の仕事3
俺は現場に駆け寄ると、適当に平和主義者を武器で殴った。
ビリビリッと閃光が走る。
相手は一瞬硬直した後、気絶して地面に倒れた。
こういう時、この武器は便利だ。
相手を必要以上に傷つけることなく気絶させることができる。
前にも言った通り、込める魔力の量を間違えたら人が死ぬくらいの電流が流れてしまうが、この武器の扱いにはそこそこ慣れているからそんなヘマはしない。
怪しまれない程度に仕事をしながら、俺はレンジを盗み見るように観察した。
今回はレンジの観察が主な目的なので、仕事はバレない程度に手を抜く。
レンジはエネルギー弾を平和主義者たちに撃っていた。
狙いは正確だ。
かなり腕が立つらしい。
ふと、レンジと目が合った。
レンジは俺に向かって、ウインクしてみせた。
俺は舌打ちしながら視線を外した。
やはりどうにも胡散臭い。
実力はともかく、信用に値するかどうかはまだまだ観察して慎重に判断するべきだろう。
左から殴り掛かってきた平和主義者を倒してから、またレンジがいた方に視線をやった。
しかし、姿が見えない。
「よっ」
その時、背後でレンジの声がした。
振り返ると、真面目な顔をしたレンジが立っていた。
いつの間に背後を取られたんだ。
「ここまでガチ戦闘になるとはな。依頼主さんはいつもこういう奴らに襲撃されてんだろ? こんなのが日常茶飯事なんて、命がいくつあっても足りねぇよ。コッソリ来ればいいのに。バカじゃねぇの?」
レンジは本人が近くにいることを忘れてるのか、分かっていてあえて言ってるのか知らないが、結構大きな声で文句を言い始めた。
ちなみにその依頼主はしっかりボディガードに囲まれていて無事なようだ。
「コソコソしていたら後ろめたいことがあると自白するようなものだ」
俺の答えをレンジは鼻で笑った。
「実際あるだろ」
「それは当然隠さなければならないだろう。ああいう人間は、汚い我が身を潔白だと言い張るのが仕事だからな。見栄を張ったり堂々としたりすることも、同様に大事な仕事だということだろう」
「ふーん。でもそんな意地のためにいちいち命を危険に晒すとか、やっぱバカだろ」
戦闘しながら会話しているが、レンジの息が切れた様子はない。
やはりこいつは実力者だ。
「それにしてもよ。おかしいと思わねぇか?」
レンジが声のトーンを落としながら訊いてきた。
「何がおかしい」
訊き返すと、レンジは前方の平和主義者を撃ちながら言った。
「それは、本当に気づいてねぇのか? それとも惚けてるだけか? ……まぁどっちでもいいか。おかしいってのは当然、こいつらのことさ」
レンジは背の高い平和主義者に銃口を向けることで相手を示した。
「確かに、こいつらは行き過ぎたデモ活動を現在進行形で行っているが、世の中にはこういう奴らも一定数いる」
俺は足にしがみついてきた平和主義者を蹴り飛ばしながら答えた。
「そういうことじゃねぇよ。こいつらの様子、ちょっと異常だ。目を見てみろよ。瞳孔開きまくってるぜ」
……確かに様子がおかしいな。
常軌を逸した正義感を持った奴らは大概目がヤバいが、そんなレベルじゃない。
これは明らかに普通じゃない興奮状態だ。
もしや……。
「これさ、薬物じゃねぇの?」
俺の頭の中を覗いたかのように、たった今俺が考えていたことをレンジは口にした。
「……ありえるな」
「もしかして、こいつらは誰かに薬漬けにされて操られてるんじゃないか?」
「……」
考えられることだ。
そしてもしそうならば、この騒動はもう一つの重要な事実に結び付く可能性がある。
レンジはまた俺の考えを読み取ったように、こう言った。
「俺たちが調査を依頼されたのと同時期……あまりにもタイミングが良すぎるが、仲介屋の話じゃあギフトは毒殺を専門とする暗殺組織らしいじゃねぇか。人を自由に操る毒を扱う殺し屋がいても不思議じゃねぇ。こいつらを操っているのがギフトの連中って可能性は考えられねぇか?」
レンジは意外と頭も切れるのかもしれない。
だが
「断定するのは危険だ。俺たちはつい先日仲介屋の話を聞いたばかりだから先入観を持っているだけかもしれない。もちろん可能性はある。が、お前の言う通り、やはりタイミングが良すぎる」
「だからよぉ。仲介屋がギフト側の人間だったら辻褄が合うじゃねぇか」
ハッとした。
俺がカルミアについて探っていることが、仲介屋を通してカルミア本人に伝わり、俺を消すために俺の行動を誘導して今この場に誘い出した……。
あり得ない話じゃない。
仲介屋がカルミアの写真を持っていたこともそれで説明がつく。
もしもカルミアが本当にギフトのボスならば、写真を手に入れることなど容易ではないだろう。
カルミアの写真を持っていることについて仲介屋は
「まぁ俺は仕事柄、色んなとこにコネがあるからな。情報屋とも連携しているし、写真の一枚や二枚集めることなんて、何でもないのさ」
と説明していたが、不自然と言えば不自然だ。
そしてこの仮説が正しければ、この場には俺を消すための刺客がいるはずだ。
俺は周囲を見渡した。
平和主義者、護衛、平和主義者、平和主義者、護衛……。
……カルミア?
カルミアだ。
カルミアが、いた。