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第87話 冗談のような遼州の『文化的功績』

「あと、これは『遼州人』が宇宙に誇っていい最大の『文化的功績』なんだけどね」

 いつの間にかアメリアの顔は『女芸人』のそれに戻っていた。

「僕達に『文化的功績』なんてあるんですか?ただ地球の真似ばかりしているだけじゃないですか……この国の在り方は二十世紀末の地球の真似なんでしょ?じゃあ、その文化だって当時の地球のコピーじゃ無いですか」

 誠もこの『東和共和国』が二十世紀末の日本の『よくできたコピー』にすぎないことは知っていた。

「まず、ほとんどが『木造住宅』で、高層住宅が存在しない……景観が良いのは立派な功績でしょ?」

 アメリアの言葉に誠は納得せざるを得なかった。

 東都共和国は二十世紀末の日本を模倣することを国是としていたので、当然ほとんどの住宅は木造住宅だった。

 つまり、高層住宅はあまり存在しないし、三階建て以上の住宅は法律上建てることが非常に難しい環境にあった。

「ほかに何か……」

 誠は文化的功績とやらがろくなものでないことは察しがついていた。

「デジタルが進歩しないことによってメディアの質が『アナログ的』に進化した……より二十世紀末の日本を進化させることに成功した……結果、きわめて愛が生まれにくい環境を実現したのよ」

「!!」

 誠はあまりのアメリアのすっとぼけた対応に呆然とするばかりだった。

「それだけじゃないわ、『遼州人』はそのモテない力により、人類に平和をもたらす方法を編み出した……」

「モテないことは自慢になりませんよ。そんな力による『平和』は僕には必要ありません」

 誠のそんなむなしい願いをよそにアメリアは話題を続けた。

「地球人の『モテる』と言う過信が常に戦争を引き起こしてきたの……すべての争いは人口の増加が原因と言ってもいいわ。つまり、愛は人類を滅ぼすのよ!そうよ、もしすべての宇宙の人々が『遼州人』の魂を持てば、人口が爆発的に増えて少ない資源を奪い合うような争いごとは起きずに平和に暮らせるようになる。それってすごい『功績』じゃない?」

 そう言ってアメリアはいたずらっ子のような笑みを浮かべた。

「まず!地球人も遼州人のように『モテない』を極めれば平和になるのよ!」

 はっきりと、力強くアメリアは言い切った。

 誠は自分がモテないことは『胃弱』からだと思っていたが、周りの女子も男子も『モテなかった』と言う事実を知らされて唖然とした。

「モテないこと……それ自慢になります?」

 そう言うのが誠には精一杯だった。

「自慢になるわよ。まず、『愛』が非常に生まれにくい!人口統計とか誠ちゃんには無縁の社会的なデータを見ればその効果は絶大だって誰にでも分かるわ」

 さらに誠は目が点になった。全然自慢ができる話ではない。『愛』がフィクションだという説は友人ともよく話し合ったが、きっとあるんだろうとあこがれていた『童貞』の誠にとってそれは認めがたい現実だった。

「もっとはっきり言うわね。『愛』の発生を『全力で阻止』する民族性だから、『愛』の結晶である『子供』があまり生まれないのよ!」

 誠は地球の似たような国で起きた『少子高齢化』と言う現象を思い出した。親の世代が多くて子供が少ないと結構社会が大変だということは小学校の授業で習った。『東和共和国』ではそもそも親の世代も少ないので人口は地球から独立してもほぼ増えていない。

「子供が増えないと社会が発展しないじゃないですか。だからこの国はいつまでたっても二十世紀末状態なんですよ」

 子供のころから社会を非難する常套句『世紀末状態』と言う、誠にしては珍しい文系の言葉を使ってアメリアをいさめた。

「でもおかげで、『遼州人』には『人口爆発』が起きないのよ。資源の奪い合いも起きない。土地の奪い合いも起きない。人口が増えすぎないから『戦争』も必要ない。前の戦争にしたって起こしたのは遼州系の地球人の子孫達が建てた国がらみだもの。遼州系の人間しか住んでいない東和は無関係って訳。『愛』は『たくさんの子供』と『戦い』を生むの。だから私達は全力でこれを『潰す!』」

 アメリアはそう言って右手を握りしめて誠を細い目でにらみつけた。

「そんなに一方的に、『モテない現実』を肯定するための理論武装をしないでくださいよ、アメリアさん」

 少し余裕のある反応を誠はすることができた。

 それは誠は自分が『モテない』のは『胃弱』のせいだと信じていたが、周りのみんながモテていなかったという事実に少し安心したからである。

「そう、私達には『モテない』宇宙人として全宇宙の『モテない奴等』を結集して『モテる奴等』の愛を片っ端から破局に追い込んで『人口爆発』を防ぎ、宇宙の恒久平和を実現する義務があるのよ!」

 誠は完全に呆れていた。確かに誠の同級生達も見合い以外で結婚した人間はいない。だが、それにしても夢が無さすぎる。誠はアメリアに絶望していた。


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