第80話 H&K P7M13
「その点……これは……」
アメリアが持ち出したのは奇妙な形の銃だった。
スライドがやたら細くその割にグリップが太めに見えた。
「出たよ……珍銃『ヘッケラーアンドコッホ P7M13』」
明らかに嫌な顔をしながらかなめがアメリアの銃を見つめていた。
大柄のアメリアの手の中で小さな銃が鈍い光を放っている。
「何と言ってもこのコンパクトなスライド!ガス遅延式ロック解除システムだからこんなにスライドがコンパクトで軽いし!」
「そんなの経済全盛期のドイツの警察特殊部隊だから買えるほどいい値段するじゃねえか」
アメリアの売りをかなめが一刀両断に斬り捨てた。
「いいじゃないの!中古なんだからコストの話は無し無し!それに売りは『スクイーズドコック』」
「『すくいーずどこっく』?」
誠は全く見たことが無いアメリアの珍しい銃を食い入るように見つめた。
「そう!このグリップに秘密があるのよ!」
そう言ってアメリアはグリップを放して見せた。そこには握りこむような大型のレバーがあった。
「なんです?この握りの部分がやたら大きいのは」
誠の食いつきにアメリアは満足げな笑みを浮かべた。
「これはね、ここを握った量だけ撃針……まあ、カートリッジの後ろを叩いて発射する機能なんだけど、そこが握ると後退していつでも引き金を引けば撃てるようになるのよ!だから握らないと絶対に弾が出ない超安全機構なの!」
アメリアはそう言うとかなめを押しのけて射場に乱入した。
「でも……あの会社らしいひねくれたシステム導入ってことで、ガス圧利用式なんて動作を採用したおかげで連射するとスライドの中のシリンダーがガスの熱で熱せられて持てなくなるよな、それ」
陽気に話すアメリアにかなめが茶々を入れた。
「私は少佐!私は運行部長!私は艦長なの!私が銃を撃つようになったらうちの部隊はおしまい。だからワンマガジン撃てて、軽くて小さい銃がいいの!」
銃を撃ち終えたアメリアはそう明るく叫んだ。
「だったらデリンジャーでも持てよ……自決用に」
呆れたかなめの言葉を無視してアメリアはいつも通り明るく笑っていた。
「二十世紀後半のドイツの誇る警察特殊部隊『
訳も分からず立っている誠をアメリアはその糸目で見つめた。
「……そうですか……よかったですね……」
銃にあまり興味のない誠はただそう言って笑うことしかできなかった。
アメリアは反応の薄い誠を無視して銃を構える。
「アメリアさんは銃は得意なんですか?」
誠の子供のような問いを聞いて明らかに落胆した表情を浮かべるとアメリアもまたすさまじい勢いで十三発の連射をやって見せた。
「私は『
アメリアはそう言って銃を腰のホルスターにしまう。誠はその手慣れた所作を見ながら自分が本当に『特殊部隊』の隊員になったことを自覚した。