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第59話 なじみの店の女将さん

「新人さん……お名前は?」

 カウンターに座る誠達の正面に箸と突き出しを並べながら女将は誠に尋ねた。

「神前……誠です」

 誠は少し女将の色気に当てられながら控えめにそう言った。

「『シンゼン』……ひよこちゃんと同じ苗字なのね。私は家村春子(いえむらはるこ)。ここは私のお店。いつも実働部隊の方々にはお世話になってるわ」

 妖艶な笑顔を浮かべる春子に目が行く誠をアメリアとかなめが両脇からどついた。

「ゲフ」

 誠のうめき声を全く聞いていないカウラは店の奥に書かれたメニューを眺めている。

「どうせまずは焼鳥盛り合わせだろ?アタシはキープしてある奴出して!」

 カウラの背後からかなめがそう言って冷やかした。

「アメリアさんと誠さんは飲み物は生中でいいかしら?カウラさんは烏龍茶ね」

「やっぱり春子さんは分かってらっしゃる!」

 春子とアメリアの絶妙な息の合い方を見て、誠はもし部隊に残ればこの店に入り浸ることになるであろうことを予想してなんだかうれしい気分になった。

 カウンターの向こうの厨房では、焼き鳥の焼ける香ばしい香りがカウンターの中まで流れてくる。

「なんだかいい店ですね」

 焼鳥の煙の漂う店内で春子と小夏が手分けして運んで来たグラスを受け取りながら誠はそう言って笑った。

「良い店よ、ここは……なんと言うか、落ち着くし」

 アメリアは笑顔でそう言った。そして小夏が苦い顔をしてかなめの前に誠が初めて見るような酒瓶を置いた。

「なんですか?そのお酒」

 誠は好奇心に駆られて尋ねる。

「ラムだよ。レモンハート。こいつに出会ったのは……あれはベルルカンのダウンタウンの酒場だった……細かい街の名前とかは軍事機密だから教えられねえがな」

「長くなるんでしょ?かなめちゃんのそのうんちく」

 かなめがうんちくを傾けようとしたとき、アメリアが手をかざしてそれを抑えた。しかたなくかなめはグラスにラムを注いで苦笑いを浮かべる。

『カンパーイ!』

 四人は元気よくそう叫んだ。

 一人はピンクのTシャツに『浪花節』と書いてある長身の紺色の長い髪の美女は、ジョッキのビールを一口飲んでテーブルに置いた。

そして、真剣な表情でウーロン茶を飲んでいる緑の髪のポニーテールの美女はそのグラスを手に周りの三人の様子を見守っている。周りの客が次々と勘定を済ませて帰っているのはこの中のボブカットの美女の脇にあるものがぶら下がっているからだった。


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