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第58話 看板娘

「肉屋とおもちゃ屋の隣に煙が上がってるのが見えるだろ?あそこの店だって……。……またあの糞餓鬼が待ってやがる……」 

 二階建ての『月島屋』と看板の出ている小ぎれいな建物が誠の目に飛び込んできた。

 その前に、箒を持ったかなめに似たおかっぱの紺色の制服姿の女子中学生が一人でかなめをにらみ付けていた。

「おい、外道!いつになったらこの前酔っ払ってぶち壊したカウンターの勘定済ませるつもりだ?」 

 夕方の赤い光が中学校の夏服の白いワイシャツ姿の少女を照らしている。誠は少女と視線が合った。

 少女はそれまでかなめに向けていた敵意で彩られた視線を切り替えて、歓迎モードで誠の顔を見つめる。そしてカウラに目をやり、さらに店内を見つめ。ようやく納得が言ったように箒を立てかけて誠を見つめた。

「この人が『偉大なる中佐殿』が言っていた新しく入る隊員さんですか、アメリアの(あね)さん?」 

 少女は先ほどまでのかなめに対するのとは、うって変わった丁寧な調子でアメリアに話しかける。

「そうよ!彼が神前誠少尉候補生。小夏ちゃんも東和宇宙軍からうちに入るのが夢なんだったら後でいろいろと話を聞くといいんじゃない?」 

 その説明を聞くと、店の前にたどり着いた誠を憧れに満ちた瞳で眺めた後、小夏は敬礼をした。

「了解しました。神前少尉!あたしが家村小夏というけちな女でございやす。お見知りおきを!ささっ!どうぞ」

 掃除のことをすっかり忘れて、無駄にテンションを上げた小夏に引き連れられて、四人は月島屋の暖簾をくぐった。

 外のムッとする熱波に当てられていた誠には、店内のエアコンの冷気がたまらないご馳走に感じられた。

「いらっしゃーい!あら、また新人さんの試験をしに来たの?」

 入ってすぐわかる焼鳥屋のカウンターで和服姿の三十代半ばと言うどこか陰のある色気を感じる女性が誠達を笑顔で迎えた。

「女将さん、試験だなんて……」

 かなめはそう言いながら女将さんに頭を掻いて苦笑いを浮かべる。

「試験みたいなもんじゃないの。結局、ここでの飲み会がきっかけでみんな辞めちゃったんでしょ?」

 女将はそう言うと三人の顔を見回した。

「まあ、遅かれ早かれあの五人はうちを出ていく運命だったでしょうからね……女将さんは悪くないわよ」

 そう答えるとアメリアは奥のカウンターに腰かけた。

「本当にそう?私が見てる感じじゃアメリアさんとかなめさんで新人君を虐め倒してるように見えたけど」

「いやー何のことかしら?さ!誠ちゃんも遠慮せずに!」

 明るい笑顔でアメリアを茶化す女将の色気のある瞳に見つめられて誠は照れながら頭を下げた。

「よろしくお願いします」

 素直に頭を下げる誠に向けて影のある女将はどこか含みのあるような笑みを浮かべてかえした。

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