13.「あなたが死んだらただのゴミ」ならお前を捨てた方がマシ。
前回までのあらすじ。
榛勃佐記念館の地下にお色気で侵入して綺麗な菊の花が咲きました。
記念館地下二階。
その一角にて。
「やあああーーーあああっとおおおスッキリイしたぜえええい。やあっぱあああこんのお恰好じゃあああなきゃあんなあああ。」
「良かったぁー、着替えがあって!ソートさん、入れてくれたんじゃないですか、もぉ!」
「うん、無意識に用意してたみたい。流石僕、配慮の塊。」
一行は芸術家ババアの名義で送った荷物を見つけ、各々の装備を手にし、元の見た目に戻った。
「それにしてもいっぱいありますねぇ、美術品やら何やら。でもちょっとこれは、趣味が悪いですよぉ。」
荷物は数々の美術品なるものに囲まれて置いてあった。それらは人体を素材として作られており、芸術と呼ぶには実におぞましいものであった。
「往々にして芸術なんて大勢には理解できないもんだよ。まぁここのは特に酷いけど。」
「首だけで作ったアーチに、人を塗り固めた銅像…うわっ?!何ですかコレ、白くてでっかいの?!」
ズォォォォオオオオオン
ヒナの目の前には、大きな門のようなものがあった。だが上の方に大きな刃が付いている。白くゴツゴツしていて、醜い。
「これは…ギロチンかな?人の骨だけで作ったみたい。刃も骨を削って磨いて作ったみたいだね。」
「ギロチンチインっつうーううのはなあああ、効りちゅよっくううう首いチョンバアするためのお機能美いをお追求しちゃあーああもんなのにいよおおお、まあまあこおんなあにもおっさあくしちゃあってえええ。何のためにいあるかあ分かりゃあーあああしんねええええぜえええい。」
「うぅ、気持ち悪ぅい。それで、ここからどうするんですか?」
「この後は一階のステージの近くに行っておじちゃんを待つ。それで登場したらスコーン、終わり。」
「結局それですよねぇ。うぅ~~~ん、もうちょっと楽しみたかったなぁ~~~!」
「まああああなああああ。でえがくう入試いとお一緒おだんなあああ、入るのだっきゃあがあいっちべえん難っしいいーいいっかったあああなあああ。」
「そうですねぇ…ん?あれ?ちょっと、ソートさん?」
何かに気付くヒナ。
「ん?何?」
「ステージでおじちゃんをばっしゃんするじゃないですか。」
「うん。」
「その後私達は逃げないといけないじゃないですか。」
「うん。」
「でも私達はステージのそばにいたままですし、警備の人もきっとたくさん残ってますよね?」
「だろうね。」
ヒナはここで察しがついてきた。
「…じゃあどうやって逃げたらいいんですか?」
「さぁ、知らない。」
「…え?知らないって…?逃走ルートとか、用意してあったりは…?」
「用意しようとはしたけどね。地上のルートは周りがゴミゴミし過ぎて難しかったし、そもそも実際見るまで現地の様子とか分かんなかったし。一応代案は今用意してるけど、間に合うかちょっと怪しいかも。まぁそれでも記念館の外に出ないと始まんないんだけどね。中を通り抜けるのについてはノープラン。悪いけど。」
「…へぇ?」
ソートの言っていることが分からない。そのため自分の今後の見通しが立たずに固まるヒナ。
「べっつうにいいいいーぜえい俺ちゃんはあああ。一人でえも逃げられえっしいいい。」
「サカはそうだろうね。ヒナさんは、まぁ頑張ってサカについていってね。麻酔銃もそのためにあるんでしょ。」
「………ぇぇぇぇえええええええええええええああああああああああ????!!!!じょぉぉぉぉおおおーーーーーーーーーーだぁぁぁああああああああああああああんんでぇぇぇぇぇえええええっっっっっっっしょぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお?????!!!!!」
「ホントホント。頑張って。足は速いでしょ。」
「銃で撃たれる剣で刺されるぅぅぅぅうううううううううう!!!!!!戦闘力が無いんですからぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!こぉぉぉおおおんな銃一丁だけじゃどうにもなりませんってぇぇぇぇえええええ!!!!!ちゃんと女性扱いしてぇぇぇええええええええええええ!!!!!性差別はんたぁぁぁぁぁあああああああああああああああああいいい!!!!!」
「声高にいそおおおんな主張おするんじゃあああありまっせえええん。声だけでかいとおおおはっつげえんのお中身があうっすうううくうなあるぜえええ?」
「じゃあ、じゃあじゃあじゃあ、今から逃げます帰りますぅぅぅうううう!!!今なら騒ぎになってないですからぁぁぁああああ!!!」
くるり
スタスタスタ
ヒナが踵を返す。
「いいけど、さっきみたいに誰かに捕まってももう助けてもらえないよ?怪しいおじさん達に休憩室に連れ込まれちゃうかもよ?」
「それでえええあんなというあんなあをコキコキシイコシイコ使われてえええ、全身からあスペルマア垂れ流しいのよせえええを送るこっちゃあにいなあああるかんもなあああ。」
ピタッ
ヒナの足が止まる。
「それだけならいいけど、そのまま捕まっちゃって奴隷にされちゃうかも。あの芸術家ババアのとこにいた彼らみたいに、ズタ袋にされるんだろうなぁ。」
「んでえ最後はあばっけもおんのお種をお産みつけられてえええ苗床になるとお。うっすうい本にゃあーああよおっくありありいいいのお展開だんなあああ。」
たら~
ヒナの額を冷や汗が流れ、
くる、りぃ
たじたじと再度踵を返す。
「や、やっぱりぃ、ギリギリまでついていっても、いい、ですかぁ…?」
「その方がいいよ。それで騒ぎになってからどさくさに紛れて外に出るのが安牌でしょ。僕も気にかけておくから。」
「うぅ…そんなちっちゃなドローンで何をしてくれるっていうんですかぁ…」
「それはともかく。おじちゃんのステージまで時間あるし、地下一階も見ておかない?」
「そおーおおだなあ。ヒンマだあしいいい、なんかあああ突破こおおおうがあ見つかあるかもおしらあああんしいいい、行っくかあああ。」
「ほらヒナさんも、無事にサカについていく方法考えといてね。案外なんとかなるって。
「それ私関係なぁぁぁぁぁあああああああああああいい!!!!!神様の気分しだぁぁぁぁあああああああああああいい!!!!私じゃどうにもならなぁぁぁぁぁあああああああああああああいい!!!!!」
何も無い空間だからヒナの叫びがよく反響する。一行は暇を持て余して上を覗きに行く。
記念館地下一階。
ここも薄暗い。下よりも雑多に美術品が並んでいる。
警備員が二人巡回してきた。
「俺も上が良かったなぁ。有名人とかいっぱいいるんでしょ?舘ひろしとか見たかったなぁ。」
「渋いなお前。それよか女だろ。ここだけの話、上の警備の奴らこっそり抜け出して女誘って食ったりしてんだってよ?」
「えぇぇ?!そんなぁ?!」
「マジマジ。いいよなぁ。」
「サボりってことじゃん!悪いなぁ!それに人を食べちゃうって?!人肉食べる人がいるの?!」
「変な方に純粋だな。女と付き合ったことねぇのか?セックスは?」
「そ、そんなの!…な、無いけど…で、でも!一緒に遊んだことはあるよ!」
「へぇ、意外。あ、ピンサロとか行ってんの?」
「うぅん、違うけど、こう、女の人の頭をポッケに入れて叩くと、いい音が鳴るんだ!」
「…俺が悪かったよ。ちゃんと仕事しよう、な。」
「?うん!」
こそこそ
その傍の柱に隠れて様子を覗う一行。
「下と違ってここは警備がいますねぇ。何か大事なものでもあるんですかね?美術品なら下にもありましたけど。」
「ちょっと気になるかも。もうちょっと奥に行ってみよっか。サカ、イラついて殺しちゃダメだよ。」
「俺ちゃんをお何だとお思ってえんらあああ?殺人鬼いじゃあねえええんだあぞおおお?」
「違うの?」
「違いました?」
「ぶうっ殺おされてえええかあああ?」
慎重に奥に進んでいく。
「あ、また警備員。隠れて隠れて。」
「ちんまちんまいやがってえええうっとおおおしゃああーああやっちゃあああだあぜえええ。」
「イラついてるイラついてる!ほら深呼吸深呼吸、ひーっ、ひーっ、ふーっ、ひーっ…」
デコォッピィィィイイン
「?!いったぁ?!何するんですかぁ?!」
「うるせぇってお前らぁ!バレるから静かにしろってぇ!」
なんとか隅に隠れ、聞き耳を立てる。
警備員三人が立ち話をしている。
「おう、異常は?」
「あると思うか?」
「そうだよな。上でお祭りやってんのに、わざわざ下に来る馬鹿もいないだろ。」
「だよなぁ。なんでこんなとこ守らなきゃいかんのか。」
「美術品あんだろ、趣味の悪い。」
「ゴミの間違いだろ。なんであんなのが高いのかワケが分からん。なのに下にもここにも山ほど集めやがって。」
「滅多な事言うなよ。それよりあっちの見回り、代われよ。怖くてたまらん。」
「嫌だよ。あいつら無駄に威嚇してきやがってうぜぇんだよ。てかもう一人いただろ、そっちの見回り。そいつはどうした?」
「知らん。さっきからいない。」
「食われたんじゃねぇの?マジでありえるぞ。」
「あるなぁ…アレを可愛がる会長の神経疑うわ。それにもうちょいしたら、わざわざ見に来るらしいぜ。ステージでお披露目する前の確認だとさ。」
「食われなきゃいいけど。老い先短いから別にいいのかもしらんが。」
「とにかく、ガチであっち行きたくねぇ。ジャンケンで決めようぜ。」
「いいぞ。ジャーンケーン…」
ポン
さっきもあっちを見回ったやつが負けた。
「何だよもぉぉぉおおおおお!!!また俺かよぉぉぉおおおおお!!!次は俺が戻ってこなくなるからなぁぁぁぁぁああああああ!!!!次はお前らだからぁぁぁぁあああああ!!!!覚えてろぉぉぉおおおおおおお!!!!」
負け台詞を吐きつつ律儀に見回りに行った。
「あいつのああいうとこ好きだわ。」
「俺も。憎めないよな。」
「俺ちゃあんもああいうやっちゃあああはあべっつうにい嫌いじゃあねえええぜえええ。」
「だよな、幸せになってほしいと思う。お前誰?」
「家族とか大切にしそうだよなぁ。お前誰?」
「気にすんない気にすんなあああい。あっはっはっはあ~」
「そうだなぁ…ってぇぇぇえええええなるかぁぁぁあああああ???!!!侵入者ぁぁぁあああああ???!!!」
「おおおっとお。」
ガッ、ガッ
ガッチィィィイイイイン
両の頭を掴んでぶっつける。火花が散った。
「「ぎゃぁっ?!ぐぅ…」」
崩れ落ちる二人。
「ラッキー、ここにおじちゃん来るんだってさ。警備付きだろうけど、上より絶対簡単だよ。人気も少ないしサクッとやれちゃうね。」
「良かったぁぁぁぁあああああ!!!!逃げやすぅぅぅうううううういい!!!!ありがとぉぉぉおおおおおおバッカでぇぇぇぇえええええええ!!!!」
「つっまんねええーええのおおお。こっこまでえやったあんだからあ、もおっともおおおっとおせいーいいでえーええいにい散らしてえやりてえええぜええええい。」
「まぁまぁクリアできるのに越したゲームはないじゃない。あっちの様子見に来るんだよね?じゃああっちに隠れておく?」
「でもあっちって、何か怖いのがいるんですよね?ペット?ライオンとか…?ワンちゃんとか…?」
「嫌だ、ありえない。」
ソートは犬嫌いだった。
「そおんなあんだったらあいいいいけんどおなあああ。まあああ行ってえみいいいっかあああい。」
「ヒナさん麻酔銃でも構えとけば?念のため。」
「そうですね、よし…で、でも、守っては、くださいねぇ…?」
「知らあん。」
スタスタスタ
一際暗く怪しい奥へと進んでいく。
グルルルルルウ…
ゴォォォオオオ…
ギェェェエエエ…
「ぃぃぃいいいい???明らかに屈強そうな獣の呻り声がしますよぉぉぉおおお???それに動物臭さがプンプン匂ってきてますよぉぉぉおおおお???」
「確かに凶悪そうな唸り声だね。声質からして結構大きい図体っぽい。ちょっとは注意した方がいいかも。」
「ビビらせないでくださいよぉぉぉおおおお???!!!」
ぎゅぅぅぅうううう
ヒナは麻酔銃を握り締める。
「まああーあああ、こいっつあーああらあああなっかなかあやるやっちゃあらあだあああぜえええい。ふっつううのおどおーぶっつうでっはあないっなあああ。」
「ん?何か感じるの?」
「ああーあああ。悲しみい、戸惑いい、怒りい、恨みい、そおしてえ、殺る気いにみっちみちみちてえるううう。拘束はあされってえるうっぽおいがあああ、それがなっきゃあ、直っぐにでえも人間らあを食い荒らあしちまうううだろおおおよおおおーい。」
「社長までぇぇぇえええええ???!!!もぉぉぉおおおおお!!!!何かあったら労災申請しますからねぇぇぇえええええ!!!!」
「降りるわっきゃあああんぬうえええだろおおおバアッキャアロオオオオオイイイ。」
さらに不穏な奥へと歩みを進める。
やがて巨大な檻がずらっと並んでいるのが見えてきた。
「ひぇぇぇ、どんだけいるんですかぁぁぁ…」
「ここの天井高いのに、そこにつくくらいおっきな檻だね。バケモン確定。」
「ワンちゃんの可能性は絶たれましたぁ…」
「よっしゃ。」
「ちょっとおおお、ヒイーナアー。そっこおにいちっかづいてえええみいいい。」
サカは一番近い檻を指差す。
「えぇ、なんでですかぁぁぁぁあああ???!!!なぜにぃ私ぃぃぃぃいいいいい???!!!」
「おもろおそうだからあ。」
「嫌で…」
「うだうだうだだあああ言うなあああい。」
げっしぃぃぃいいい
ヒナをぽーんと蹴る。
「ひぎぃぃぃいいい!!!!こんなんばっかりぃぃぃいいいいいい!!!!」
檻の格子に恐る恐る近づく。
「あのぉ…?いますかぁ…?」
…ォォォォオオオオオオオオオアアアアアアアアア!!!!!!
ガッシャァァァアアアアアアアアアアン
何かが鉄格子に突進してきた。
「???!!!っっっげぇぇぇえええええ???!!!びっくりしたびっくりしたぁぁぁあああああ????!!!!」
黒い毛に覆われた巨体に、腕が一本二本三本四本。ごつく皺だらけの指、太い腕、大きく膨らんだ肩回りからは筋骨の逞しさを感じる。
「ゴリラゴリラゴリラだんなあああ。立派あなあ個体だことおおお。」
「いやいや腕おかしいよ…どういう骨格してんの?肩凝りとか酷そう。それにデカ過ぎ。三メートルは確実にある。大体の猿系って人間より小さいくらいじゃなかったっけ?」
「遺伝子いをおこんねえこんねえくうりくうりされたんかもおなあああ。憐れ憐れの悲しみにいいい。」
ギョアアアアッ、フンギョォォォオオオオオアアアアアアアアア!!!!!!
ガッシャガシャガシャ、ガシャァァアアアン
「ひゃぁぁぁああああ!!!!檻から出ようとしてますぅぅぅううううう!!!!!殺されるぅぅぅううううう!!!!!」
フシュッ、フシュゥゥゥウウウウウ
ポタポタポタッ
荒い鼻息で涎を垂らし、床を濡らす。その目はヒナを真っ直ぐ見据えている。
「いや、殺すというよりは…」
「ヤリてえええんだなあああ、おんめえええとおおお。ひっさしぶりいの雌のおおお匂いいにい、コオーフンしたんかあああ?」
カクカクカクカクッ
ゴリラは器用に腰を振り出した。
「きぃぃぃいいいいいいっっっっしょぉぉぉおおおおおおおおいいいい!!!!!こんの猿ごときがぁぁぁぁあああああ!!!!!人類の叡智をくらぇぇぇええええええ!!!!」
ヒナは麻酔銃を構える。
「あ、ちょっと。」
静止も間に合わず、
プシュッ
トスッ
発射された麻酔針が命中。
ウガアアアアアァァァ…?
バッタァァアアアン
ゴリラは力が抜けたように倒れ込んだ。
「あーあーあー、勿体無い。別に檻はビクともしてなかったし、大丈夫だったのに。ビビっちゃって無駄撃ちしちゃって。」
「だってだってだってぇぇぇぇええええええ!!!!!怖かったんですもぉぉぉおおおおおおおおん!!!!」
「こいつうにしちゃあああ、俺ちゃんらあもそっこそここここっえええーはずだっぜえええ。武器もあるしいなあああ。自然の中でえ相たあいしっちゃあああ武っきい使おうがあ対っとおーおおだっがあよおおお、閉じ込めたあ上でえええ痛めつけるっちゃあああのはあふっこおへえええだあよおなあああ。」
「じゃあもう私を近づけさせないでくださいよぉぉぉおおおおおお!!!!!面白半分で乙女の純情を弄んでぇぇぇええええええ!!!!!」
「純情馬鹿。」
「戻りましょうよぉぉぉおおおおお!!!あっちの方で隠れてればいいじゃないですかぁぁぁああああ!!!!」
「そおおおんなことお言うなあああしい。もおおーおうちょおおおい見ようぜえええい。」
スタスタスタ
サカはさっさと歩いていく。
「んんもぉぉおおおおう!!!!博愛主義なんだからぁぁぁああああ!!!!」
ギャアアアアアアアアアス
キョェェェェエエエエエエ
様々な動物が収監されているが、皆んな見た目がおかしい。目が四つあったり、翼があったり、くちばしが異常に長かったり…
「皆んなどこかおかしいのばっかりで可愛くなぁい…それに恐竜みたいなのもいますよぉ。」
「みたいじゃなくて、ガチモンだね。プテラノドン、パキケファロサウルス、スピノサウルス、ティラノサウルス…恐竜図鑑でよく見るやつら勢揃いだ。ちょっと感動しちゃうね。」
「古代のおデエイーエンヌーエエーから抽しゅっつうーしてえ作ったあクッロオーンだあろおなあああ。とっくにい絶滅してえおねんねえしたはずがあ、人間様のエゴでえ蘇させられてえやがらあああ。」
「そうですかぁ…っっっぉぉぉおおおおおおおお???!!!」
ヒナ、慄いた。
オオオオオオオオオオオオオオオオオオ
檻満杯に詰まった巨体も巨体。濃い茶色の毛むくじゃら。人を吸い込めそうなデカくて長い鼻に、とんでもなくカールした長い牙。その圧倒的存在はヒナをまるで意に介さず、冷たい視線を送る。
…
「怖いぃぃぃいいいいい!!!無駄に動いたり叫んだりしないところがかえって強者感たっぷりで恐ろしぃぃぃいいいいいい!!!!」
「マンモスだ。象の何倍も大きいんだね。てか昔の人間ってコレ倒してたんだよね?正気?」
「こおおおんなあせっめえええところに入れられちゃあーああ、気が滅入ってえ滅入ってえええしっかたあねええーえよおおおなあああ。わっかるぜえええい。強いやっちゃあああ、じっゆうううに大地いを駆けてこそお、強者たるわあああなあああ。」
「社長は駆け過ぎですけどね、自由に。」
「自重してほしい。」
「やっかまあああしいいい。」
そのまま進んでいくと、最後の檻が見えてきた。
「やぁぁぁっと最後ですねぇ。珍妙奇天烈卑猥摩訶不思議博物館もこれで見納めかぁぁぁ~!うぅ~ん!」
すっかり慣れて油断して背伸びをするヒナ。
「最後の檻、これだけ材質違わない?よりいいもの使ってるというか、ピカピカだよ。一番ヤバそう。」
「それにい、ヤる気いもムムンガムンムンムムムンムンだぜえええ。いってえくれえ伝わってえくっらあああ。そおーとおーなあやっちゃあああがあいるなあああ?」
「どんなのなんですかねぇ、どれどれ…」
グルルル…
ココココ…
グルルル…
それは寝てるようだった。全身純白のふさふさな毛並みに、黒の細い縞模様。白い髭を何本も蓄え、時に舌なめずりしながら、前足を畳んで長い身体を伏せている。ネコ科の王者と思えんばかりの佇まいである。
「きゃぁぁあああああ!!!おっきな猫ちゃあああん!!!!かぁぁぁあああわぁぁぁああいいいいいい!!!!バケモンばっかり見てきたから余計にそう感じるぅぅぅううううう!!!!!」
「ホワイトタイガーかな?これまた大きな図体だこと。」
「いやぁん、おねむねむねむにゃんこちゃんなのねぇ。もうちょっと近くで見たいなぁ…」
ヒナが無警戒に檻に近寄る。
「止まれえヒナア。」
「へ?」
「死ぬぞ。」
いつになく真剣に呼び止められた。
「あ、周りに血の痕がある!」
「えぇ?!…あああああああああああ!!!ホントだぁぁぁああああ!!!あっぶない、あっぶなぁぁぁああいいいい!!!!」
ヒナがあと一歩踏み込もうとしたところには、べったり血が広がっていた。
ぺろぉり
舌なめずりをする際に見えた、太く垂れ下がった鋭い二本の牙。そして口の下には、よく見れば白骨がバラバラと落ちていた。
「ひゃぁぁぁぁあああああ!!!!人が死んでるぅぅぅううううう!!!!さっきの人も食べられちゃったんだぁぁぁああああ!!!!」
「牙なっがぁ。アレで近くを通った人間を搔っ切っちゃうのか。」
「ホワイトオサアーベエルウってえええとこっかあああ。なっかなかあのもおん生み出しやがってえなあああ。」
スタスタ
檻に近づくサカ。すると、
ピクッ
スックゥゥゥウウウ
ザッシャ、ザッシャ
サカの気配を感じ取ったのか、起き上がってゆっくり近づいてくる。
「よおおおーう。おはようさあん。」
グルルルル…
サカ、ネコ科の頂点と相対す。しばらく見つめ合って動かない二体。その間にヒナとソートは展開を察して距離を取って隠れていた。
「何してるんだろ、ずかずか近づいちゃって。」
「同じ獣だからシンパシー感じてるんですかね?争いは同レベルでしか発生しないともいいますし。」
「ヒナさんの卑劣さも、もはや好きになってきたよ。」
グウウウアアアア…
キラァァァアアン
サーベルが牙を見せる。薄く光が反射して妖しく照り付けている。
「俺ちゃんもお食う気いかあああ?そおんなあ簡単にゃあーああいっかねえええぞおおお?」
スッ
檻の中に手を伸ばし、
ピィンッ
サーベルの鼻を弾いた。
グゥゥゥウウウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアア!!!!!
ビリビリビリビリビリィ
とんでもない雄叫び。
「ちょっとぉぉぉおおおおお???!!!あの人脳無しなんですかぁぁぁあああああ???!!!自分以外の人間への配慮はできないんですかぁぁぁぁあああああ????!!!!」
「付き合ってきて分かったでしょ、そういうやつなの。リスクに晒されてないと楽しくないんだよ。」
「えっ…付き合ってるだなんて…そんな…そこまででは…ひゃー!」
顔を押えるヒナ。
「カス。」
一方サカは済ました顔で、
「なんだなんだあああ?デケエ声でびびらせえるだっけかあああ?んなわっきゃあねえよおなあああ?食い殺してえやってえよおなあああ?出ってえこいよおおお。おんめえならあそっくれえええできっだあろおおお。」
くいくい
挑発までしちゃう。
グルルルル…
ザッシュ、ザッシュ
一歩、また一歩とサーベルが格子から距離を取る。檻の一番端に着いたところで、
ダン、ダァァアン
コァァァアアアアアア…
ググググググゥゥゥッッッ
前足を広げて踏んじばり、全身を捩りつつ姿勢を最大限低くして、後ろ脚に力を溜める。
「おおおーう。いいいじゃあああねえええかあああ。やあああっとお本気本気いになったんかあああ。人間っちゃあむっかつくよおなあああ?自分の方がつっええええのにい、小手先でえ従わせてくるうのにい、我慢ならねえよなあああ?」
ググググギギギギギギギィィィッッッ
ガ…ガ…
動きが止まる。チャージは完了した。
きひぃっ
「さあああーーーああ来いよおおおおおお!!!本能のままあに食らい尽くすう世界目っ指してえええええ!!!こんのお人げえん代ひょおおおのお俺ちゃあんをおおお、超えってえみせえろおおおおおおおおおおおおおおあああああああ!!!!」
「人間代表はちょっと。」
「傲慢が過ぎるね。」
ガッ
キィンッ
ドォォォッッッッッゴォォォォオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!
爆裂、檻が弾け飛ぶ。
「ぎぃぃぃいいいいいいいい???!!!ばっくはつしったぁぁぁぁあああああああ????!!!!」
「地球の生命体なのコレ?とんでもないの作ったもんだ…」
シャッ
ドゴッ
シャァッ
ドゴォッ
シャシャシャァァァッッッ
ドゴバゴボッゴォォォッッッ
サーベルは目にも止まらぬ動きで攪乱し、獲物の隙を覗う。
「鋭おい動きいねえええ、お元気元気い。」
シャァッ
ドゴォッ
ググッ
一瞬力を溜め、
バッガァァァアアアン
一際強く跳躍し、
グワアアアアアアアア
シュッキィィイイン
牙を立ててサカに襲い掛かる。
シュッ
ガァァァアアアアアン
手刀で弾き返す、が。
ボロォッ
プシュップシュゥゥゥ
その一瞬でグローブが裂け、手から血が噴き出す。
「ほおおお?やあんじゃあああん。こっりゃあああワックワクウウウしっちいまうなああああああああ???」
サカは手の血を舐めてサイコパスに笑う…ことはせず、ズタボロになったグローブを包帯代わりにして冷静に止血する。
「ほおらあもっともっとお気張らんかあああい。そんなあんで食われるほどお甘かあねえええぞおおお?」
グオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアア!!!
サーベルが襲い掛かってきて、
ギィィィイイイン
シュカァァァッ
ザッシャァァァッ
牙を爪を高速で振り回す。
「はっ、はあっ、はああああああっ!!!いいぜいいぜえ、いいいいいいいいぜえええええええええええああああ!!!!人げえんのおおお社会じゃあ味わあいきれぬうあいいい、ちいきゅーうううのお神秘ってえやっちゃあああをお、ビッグンビッグウンかあんじいちゃあああうぜえええええええええええええ!!!!!」
ガカッ
ボグボグゥッ
ドガァッ
サカはサーベルの攻撃をいなしつつ打撃を入れる。バットは使おうとしない。
グアアアアアアアアアアアア!!!!
「きひゃっ、きいいいいっっっひゃあああああああああああああああ!!!!」
異種格闘戦をそっと見守るヒナとソート。
「なんか楽しそうですねぇ。」
「動物自体好きみたいだし、それにあのホワイトサーベルもなかなかの強さしてるから、ストレス解消にいいんじゃない?殺す気も無さそうだし。」
「でも結婚して同棲したら、アレをペットにするのはちょっと…もうちょっと小さくて可愛いのじゃないと…その頃には私の意見も尊重してくれますかね?」
「いい加減お花畑から戻ってこいドグソofクソアマ。」
ガガァァァッ
ドガァァァッ
ザッシャァァァアアアッ
「ほれほれほれほれほれほれほれほおおおおんれええええええええい!!!!」
ドゴドガバギグシャバゴボグバッゴォォォッッッ
サカのラッシュがサーベルの胴体に刺さる。
「おおおううううるうううううああああああ!!!!」
ズゥッゴォォォオオオオオン
回し蹴り炸裂。サーベルの巨体が床に叩きつけられる。
グゥゥゥ…ゴアアアアアアアアアアアアア!
サーベルは口を大きく開けて食らおうとしてくる。
ガッギィィィィイイイイイン
「おおおっとお。どおうどおーおおう。」
サーベルの上下の顎を押えて食い止める。
グウウウウウウウウ…!
ガガガガガガ
サーベルは凄まじい力で噛み潰そうとする。押さえていた口が段々閉じてくる。
「おおおお?なっかなかあああの顎おじゃあああねえええのおおお。だがあ?だがだがだあっっっがあああ…おお惜しかったああああなあああああああ!!!!!」
グィィィッ
サカは腕に思い切り力を入れ、
バッカァァァアアアアン
口を目一杯押し開き、勢いそのままに顎を外す。
グァァァ?!
「ちいいいいいいえええええええええりゃあああああああああああ!!!!」
ドオッッッバァァァァアアアアアアアアアアン!
サカは全身を回転させサーベルの顔面に背中を押し付け、
ガァァァッッッシャァァアアアアアアアン
ガラガラガラ…
そこへ。
バタバタバタ
「何の騒ぎださっきから?!誰かいるんだろう?!」
「もう会長が来るのに…何なんだ一体?!」
さっきの警備員二人が駆けつけてきた。
「あーあ、来なけりゃいいのに。」
「無駄死にですねぇ。」
ぬぅぅぅううううううっ
サーベルが警備員に近づく。
「な、なんだぁ?!虎かぁぶぅっ…」
ザシャァッ
爪で裂かれた。一名殉職。
「はぁぁぁあああああ???!!!なんだなんだなんなんだぁぁぁあああ???!!!やめぇっ、やめてくれぇぇぇぶふぅっ…」
シャガァァァッ
牙で裂かれた。もう一名殉職。
ガッツ、ガツガツ
サーベルは警備員の亡骸を搔き込み搔き込み食べ始めた。
「もおーおう顎治したあんかあああい。さあっすがあああねえええい。おやつおやあつのお時間なあああ。食べなあ食べなあああ。」
「くぅ、ちょっと可愛いぃ…?!何かネコちゃんとかが一生懸命にご飯食べてる姿って、見てるだけで幸せになってきませぇん?!」
「まぁ、うん、食べてるのが人じゃなければ。」
フッシュゥゥゥウウウウ
ぺろぺろぺろぉりぃ
サーベルの栄養補給が終わった。足元には衣服だったものと白骨が散らばる。
「じゃれあああいはあこんのへえんでえいいーいいだあろおおおーおう。最後っ屁えええのガチマジ本気いをお、あ見しってえええごらあんなさあああいあいあいああああい。」
ススッ
グゥッ
サカはサーベルに対して身体を縦にし、脚を広げて腰を落とす。片腕を突き出してサーベルに向け、もう片腕は宙に掲げる。歌舞伎役者のようなクンフーの構え。
ブッシュゥゥゥウウウウウ
ググググググゥゥゥッッッ
サーベルは息を吐き、姿勢を低くする。檻を突き破った時と同じように。
ググググギギギギギギギィィィッッッ
ガァァァ…
チャージ完了。勝負は一瞬。
「来なんせえ。」
ガッ
キィン
ピッシャァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
サーベル、放出。一直線にサカの下へ。
きひぃっ
スッ
サカは、当たる寸前で身体を傾けて牙をかわし、
ぐっ
まずは腕をサーベルの身体の下に入れる。
ぐぐっ
次に肘。
ぐぐぐっ
最後に背中を入れ、サーベルを背負う形に。
「ううううううううううううううううっっっっっっっっっっっるうううううううううううううううううあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
ドオオオオアアアアアッッッ
爆裂な突進力を利用した背負い投げ。とんでもない速度で反対側の壁に吸い込まれていく。
キィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン
ドオオオオオオオオッッッッッッッグゥゥゥゥウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアン!!!
派手過ぎる音を立てて壁に激突。大きなクレーターを作った。
その振動は上にも伝わる。
記念館一階。
ゴゴゴ…
「きゃっ、地震?」
「おいおい止めてくれよこんな日に。」
「大丈夫、そんなに大きくなさそうだ。速報も出てないし。」
「なぁんだ大丈夫か。良かった良かった。さぁ女すけこまそ。げへげへ。」
「いやぁんエッチィ♡」
呑気なものだった。
パラ…パラパラ…
グォォォァァァ…
まだ諦めずに戦おうとするサーベル。
「タフガアイさあああ。気んにい入ったあぜえええい。」
ドカァッ
サカがサーベルの身体に寄りかかる。何の敵意も無く。
「なああーあ?人間ってやっちゃあもおおお、なっかあなかなかただなかあ弱かあああねえーええだんろおおお?」
ポンポン
なでなで
サーベルの頭を優しく撫でる。
ゥゥゥ…
サーベルは抵抗しない。
「人げえんはあ史じょおもおっともおおっそろちいーいい生きもんよおおお。ちっきゅーうのお全てえのお生きもんをおしっはいかにい置くう、最きょおーのお存在い。でんもお?でんもおなあああ?だからってえなあーああんもお遠慮おすっこったあぬうええーえべえよおおお。心っぱあいすうんなあああい、おんめえはあつっえええ。俺ちゃあんのおっ墨い付きでえええい。強くつよおーおおくう生きやがれえええ。おんめえにはそんっの資格うがああーああらあーああなあああ。」
なでりなでり
顎の下も撫でてやる。
…ゴロゴロ
「んおお?」
ゴロゴロゴロゴロ
目を閉じて気持ちよさそうにしながら頭をサカに押し付けてくる。こっちも気に入られたようだ。
「おおおおーおうおうおう?今日の敵はあ今日のうちいに友になるんかあなんとやらあかああああああ?!きいいいっひゃっひゃっひゃっひゃああああああ!!!」
薄暗い地下にて。サカに人間以外の友達が出来た。
その後。
「きゃぁぁぁあああああーーー!!!ふわっふわぁぁぁああああ!!!気持ちいいいいいいーーー!!!おっきいねぇぇぇ可愛いねぇぇぇえええええ!!!ね、ね、背中乗せてくれない?!背中!」
サーベルはヒナにも仲間意識を持ち、言うことを聞くようになった。
「乗ったぁぁぁああああーーー!!!意外と高ぁぁぁあああああいい!!!広背筋を感じるぅぅぅうううううう!!!逞しくてかっこいいいいいいいい!!!いい子いい子ぉぉぉおおおおおお!!!」
よーしよしよしよしぃ
これでもかというくらい撫で回す。
「さんざん怯えてたくせに。調子いいんだから。」
グァォン
サーベルはちょっと身体を振る。迷惑そう。
「んでえ、こんあっとはあああ、こっこに来るうジジイイをおいたぶるだっけかあああ?」
「そうだね。もうすぐみたいだし、パパッとやって帰ろうよ。ルートの手配もなんとかなりそうだからさ。」
「帰り道見つけたんですかぁぁあああああ???!!!さっすがぁぁぁあああああ!!!!」
「舐めないでよ。戦闘以外ならやることやるんだから。」
「つうっまあああんねえええいのおおおお。テエンショオンもおバイブスウもお上がってえきたあぶあっかあああなあああんにいいい。どっかあああんとおでえっかくうぶっ殺してえやっりいてえええよおなあああ。いいーいいダチ公もおでけえったあことだあしい、なあああ?」
ガルゥァ
「またそんな我儘言って…じゃあどうする?爆弾でもくくりつける?」
「そおおーおおさああーああなあああ…おおお?」
サカが何かに目を付ける。視線の先には、美術品の補修に使うであろう工具や絵の具のセットが。
「お?お?お?おおお?」
でかでかと厚みのあるキャンバスに、うっすい色で何描いたかも分からんような絵画。それらを目まぐるしく見やる。
「おおお、ああああ!なんかあああ、出ってきそおおお!ものっそおおおいショオーの天っさあい的いアイイイデエイアアアがああああ?!あとなんかあ刺激があ、どすこいどおすこおい刺激があああればあああ思いつきそおおおおおおお?!」
「頭沸いちゃったぁ、しんど。」
「刺激ですってよぉ。いっけぇサーちゃん。」
ガォウ
あぁーん
がぶりがぁっぶりぃぱっくんちょぉ
サーベルがサカの頭にかぶりつく。牙が刺さって血がダラダラ流れる。
「ほおおおおおおあああああ!!!しゅごいしゅごいしゅっごおいのおおおおおおお!!!ああああああああくるくるくるくる、きっちゃうううううううう!!!!!しゅごいのがああああああ頭ああああにいいいいくるううううううううううううううあああああ!!!!!」
「大丈夫なのコレ?顔が血に染まってるけど。」
「大丈夫ですよぉ。石頭にはこんくらいしないと柔らかくなりませんってぇ。」
「ああああああ…?!っはあああああああああああああ!!!!きったああああああああああああああああああああああ!!!!!こっれえええええだああああああああああああああ!!!!!」
ピッカァァァアアアアアン
サカ、妙案を思いつく。
「ほらほら、上手くいきましたよ。」
「訳が分からん。」
「ナアーヒイー、そっこおおおのおキャンバッスウとお、絵の具うセットをおおお、持ってえええこおいやあああ。」
血を拭き拭きしながら命令を出す。
「へぇ?今から絵でも描くんですかぁ?何のためにぃ?」
「まあああ聞っけえええい。ジジイイはあ警備に守っられえてえいいるううう。だったらあああ、俺ちゃあんらあはあ身を隠しいてえええ、裏あをかっかねえとお、いっけえねえええよおなあああ?」
「地下に来た時点でこっちのもんだと思うけど、そういうことにしとくよ。で?」
「裏あをかっくにいいい、目をあっざむっくうたっめにいはあああ、俺ちゃあんらあもおびっじいつうひいんにいなあってえええ、ここおいらあにい紛れこめえりゃあーああいいいーのおんよおおお。」
「は?美術品になる?どゆこと?」
「せっつめえええしってえる時間はあぬうええーええ。さっさあとおおおうっごおくうぞおおおあ。おおいヒイーナアーーー!さっさあとしろおおおい!」
「分かりませんけど分かりませんけどやりますよぉ、もぉ!DV野郎!モラハラ夫!」
「何すんのか分かんないけどさぁ…失敗するのだけはやめてよ?」
「だあああーあれえにい向かってえ言ってえんだあああい。俺ちゃあああんにいまっかせえとけえばあああ、ずうええーーーえええんぶううっまくういっくうううさあああ。ま、楽っしみいにしとけえええい。」
「ホントにもう…五億分楽しませてよ?」
グルァ
会長到着が迫る中、慌ただしく準備を始める一行。美術品になるとはどういうことか、ホントに長いけどまだ次回に続く。