『いいね』が欲しかっただけ
「『いいね』が欲しかっただけなんだ。あの家の内部を撮れば、バズると思ったんだ」
「けど、空き家とはいえ、勝手に入ったらいかんだろう、ん?」
「おまわりさん、あの家、何なんだよ」
「何って、ただの古い空き家だが、勝手に入るのは犯罪だ。分かるね?」
「でも、あの家の中に落ちてた、機材とか荷物、あれって、以前に誰か、あの家に入って、忽然と消えたんじゃないか。俺の友達みたいに」
「ああ、一緒に入ったという君の友達ね、さっき教えてもらった番号に掛けたら、ちゃんと出たよ。自分の家にいるみたいだね」
「い、家に? だって、あいつの車、まだ、あの家のそばに・・・」
「信じられないのなら、後で自分でかけてみるといい。とにかく、連絡先を控えて厳重注意だけにしておくから、君も今日は帰りなさい」
「とにかく、あの家の中に、忽然消えたみたいに荷物が置きっぱなしになってたから、俺の前に誰か行方不明になってないか、きちんと調べておいた方がいいと思うぜ、おまわりさん」
「分かった、分かった、早く帰りなさい」
やれやれと思いつつ、また今年も、その青年を追い返した。もう何年も同じことを繰り返していることを、その不法侵入者は気づいていないようだ。もちろん、このことは上には報告していない。
毎年、同じ服装で年も取らずに同じことを繰り返していると、彼はいつになったら気づくのだろう。