024 兄襲来
「まぁ、身も細る思いなのかどうかは人それぞれですし?」
「シェナ、それなぐさめてるの?」
「一応?」
なんか全然なぐさめられた気にならないのは、気のせいかしら。
「ぶぅ」
「でも本当ですよ。人の心の内なんて、見えやしませんからね。どんなことでミレイヌ様が傷ついて、どんなことで苦しくなって……でもそれでも前を向こうとしてるかなんて、早々気づく人はいませんよ」
「笑顔の下にって意味?」
「そんな感じです」
見透かされていないようで、なんだかシェナには全部見透かされている気がした。
説明なんてしなくても通じる関係。
そしていつも気にしないように見せてる私でも、気にすることもあるんだってこと。
シェナが分かってくれているだけで、なんだか心強い。
「……ぅん、ありがとう」
「考えすぎて寝ないのだけはやめて下さいね」
「ぅん、気を付ける」
「今日はゆっくりなさって下さいと言いたいところだったのですが、そうもいかないんです」
そう言いながらシェナは一通の手紙を私に差し出した。
手紙は珍しく開封されている。
「すみません、ミレイヌ様。昨日のあまりに遅い時間に届いて、急用だと困るので執事長にも確認して先に開けさせてもらいました」
「うん、そんなのはいいよ」
蝋で押された印は、私の実家のものだった。
そんな夜遅くにわざわざ届くような急用って何かしら。
「んと?」
手紙には短く、昨日隣国より帰国したこと。
そしてお土産を持って明日この屋敷を訪ねること。
そんな内容が兄の名前で書かれていた。
手紙が届いたのは昨日の夜遅く。
んで、その明日ってことは……今日来るってこと!?
「え」
「……はい。すぐにご用意しませんと」
「え」
兄が私を何よりも溺愛してるのは分かっていたけど、さすがに私はここへ嫁いだのよ。
普通、訪ねるにしたって夫であるランドにお伺いを立ててからってのが筋なんじゃないの?
いくらなんでも急すぎるし、迷惑でしょうに。
「えええ。さすがにコレはまずいんじゃない?」
「旦那様はご了承なさいましたが、朝から料理長を始め使用人たちは大忙しです」
「でしょうね」
客人が来るということは、もてなさなけらばいけないということ。
いくら身内で、いくらお気になさらずに~なんて言われてもそういうわけにはいかない。
「……あとでお兄様には、私から十分すぎるほど言っておきます」
「お願いいたします」
「自分の支度は自分で出来るから、シェナもみんなを手伝ってきて? 私もあとで厨房へ顔を出すわ」
「そうしていただけると助かります」
自分の家のことだもの。
私がしっかりと責任を取らないと。
もー。なんでこんなに急なのかなぁ。
兄は父の会社で一緒に働いている。
うちの会社の主は交易で、いろんな国へ買い付けに行ったり、うちの国のモノを輸出してるんだっけ。
これがまた結構儲かってるみたいなのよね。
だから兄はあまり屋敷にいる時間は短く、私が結婚する前も急に帰ってきてはお土産をたくさん買ってきてくれたっけ。
でも今の私はもうあの頃と違うんだから。
それに兄のお土産は太るものばっかりだし、ちゃんと言ってきかせなきゃ!
私はそそくさと一番大きめのドレスを手に取ると、着替え始めた。