014 これが女の戦い
「あらこれはモンブラン嬢、お久しぶりですわね」
一番先頭を歩いていた赤いドレスの令嬢が声をかけてきた。
お茶会のあとなのか、面会のあとなのか。
夜会にでも出るかのように張りきったドレスには、細やかな金の細工が施されキラキラと輝いていた。
そして指には金の指輪。
ネックレスも金のチェーンにルビーと念の入りよう。
過去の記憶がある私からしたら、すっごーい。
めちゃ成金感満載だわ。と、なるんだけど。
でも今は、そこじゃないのよね。
この赤ドレスの金髪つり目の令嬢様が、わざわざ私を旧姓で呼んだことが問題なの。
わざとというか、貴族的な言い回しなんだろうけど。
なんていうかな、うん。喧嘩売られてるわ、これ。
「そうですね、マリアンヌ嬢。お久しぶりです。しばらくお会い出来なかったので、もしかして私が結婚したのもご存知なかったのですかー?」
やっだぁ。そんなことも知らないのー?
系のノリで、私はストレートに返す。
だいたい先に喧嘩を仕掛けてきたのは、向こう。
私がショックを受けて、泣き出すようなか弱い令嬢ではなかったコトを後悔するといいわ。
「まぁ、なんて物言いなんですの?」
「そうでしょうか? 私はマリアンヌ嬢が知らなかったようなので、親切に言っただけですわ」
「マリアンヌ様はこの社交界では、中心なのですよ」
「でも
後ろの取り巻きたちがキーキーと声を上げても、私はもちろん引くつもりはない。
まだ結婚してないだろと言われて、世間に疎かったから知らないのねって返しただけだもん。
ほら、何にも悪くないわね、私。
「ランド様がペットを飼われたとは聞いておりましたけど、まさか奥様が出来たとは存じませんでしたわ」
ペットってさぁ。人を前にしてよくそこまで言ったわね。
あー、思い出した。この娘、確かランドに手紙を出していた一人だわ。
自分を第二夫人に~とか。
奥様よりも私の方が~とか。言い寄ってるヤツの一人だ。
だからどうしても認めたくないのね。私の存在自体を。
でもそっちがその気なら、こっちにも考えがあるのだから。
「確かに……」
「ミレイヌ様?」
心配そうに私の顔を覗き込むシェナに、これでもかというほど悪い笑みを返した。
「確かにランド様は、まるで猫でも撫でるかのように毎日可愛がって下さってますし。それならペットでも、私は構わないですわ」
「な、な、なにを!」
「それにペットにすら勝てなかった方たちに何を言われても、私はなんとも思わないんですのよ?」
白豚ペット枠にすら負けてるのに、遠吠えしてるんじゃないわよ、こんなとこで。
こっちはとっととランドに果実酢を渡して喜んでもらいたいんだから。
あなたたちの相手してるほど暇じゃないのよ。
「そんなことで勝ったとでも思ってるんですの!?」
「思ってますけど、それが何か? それにお忘れかもしれませんが、私は元々侯爵家の人間ですよ。それを分かった上での発言ですか?」
令嬢たちは私の発言に顔を青くさせた。
うちの実家は三大公爵家のすぐ下の地位にあり、かつ侯爵家の中でも一番の大きさだ。
おそろしく金持ちな上に、これでもこの令嬢たちよりも身分は上なのよね。
白豚な私は彼女たちから見たら令嬢としては格下かもしれないけど、ちゃんとしてるんだから。
「それは……あの……」
「私、夫との面会で急ぎますのでこれで失礼します」
項垂れるように頭を下げ、廊下のすみにずれる令嬢たちを無視して私は歩き出した。