003 歯に着せぬメイド
「だからお願いシェナ。ランド様は私のコトどう思ってると思う?」
「あー。ん-。本当のコト言っていいですか?」
「うんうん」
「本当に? 後悔しません? あとで聞かなきゃよかったとかはナシですよ?」
かなりめんどくさそうにシェナはその紫の瞳で私を見つめた。
そして肩より少し短い髪をかき上げるように頭をかくと、少し考えるように上を向く。
「もちろん、シェナの言葉なら信じるし、ちゃんと受け止めるわ。それにランド様に直接言われるよりは大丈夫よ」
「そうですか……。ではまず言いますが、ミレイヌ様は女性としての魅力に#大変__・__#欠けておりますからね。初夜っていうか、この家で飼育されてるだけで抱くって気持ちにはなれなかったんじゃないですか?」
「し、飼育?」
ちょっと待って。飼育って、あの飼育よね。
ペットとか家畜とかを飼うっていう意味の。
えええ。
つまりは、私はランドにとって妻である前に女性とすら見られていないってこと?
ああ、違うわね。
むしろ人ですらないじゃない。
「だってそうじゃないですか。まずそのぼよーんとしたお腹。胸とお腹の区別ついてないですよね?」
「えええ」
シェナに指さされ、私はだらりとソファーに埋もれていた体を起こす。
そして言われた箇所を見れば、確かにたわわな胸の下には、もう一番肉厚がある。
自分で自分のおへそが見えなくなってどれくらい経ったかしら。
これでも昔は痩せてたのよね。昔は。
そう、ちゃんと痩せてた。
でも結婚式の時も大きくなったとは言ったけど、太り過ぎだってランドは言わなかったし。
ほらデブ専とかぽっちゃり好きって、世の中多いのよ。
ああ、#この__・__#世界ではどうか知らないけど。
そうかそのせいだ……。
私はこの世界の転生者だった。
前の記憶があるからこそ、今のような弊害が起きてるってわけね。
「ねぇシェナ、この世界ではもしかしてぽっちゃりサンは人気ない感じ?」
「人気ないどころか、基本的にはアウトですね。デブにはほぼ人権などないですよ」
「えーーーーーーーーーー! 嘘でしょう!?」
「そんなことに嘘ついてどうするんですか。だいたい、ミレイヌ様より太った令嬢なんて見たことありますか?」
思い返せば社交界にはあまり出なかった私だったけど……。
確かに私ぐらいっていうか、私より太った貴族なんてほとんど見たことがない。
いたとしても、中年太りした男性貴族くらいだったわね。
でもでもでもでも、こうなってしまったのは私だけのせいじゃないし。
「でもお父様やお母様は、私のことを可愛い可愛いって言ってたわよね?」
「ああそうですね。皆様、ミレイヌ様を溺愛していましたものね」
「そう、溺愛してた」
「だからこそ、分からなくなっていたんじゃないですか? 可愛すぎるあまりに、正常に考えられなかったっていうか」
「そんなの……そんなことって……」
そんなこともあるのね。
前とはまったくの逆だったから、全然分からなかった。
溺愛しすぎるあまり、私がこんな風に太っていてもおかしいと思うこともなく、両親は可愛がってくれていた。
有難いことなのだけど、でもある意味これもダメだったってことね。
過ぎたるはってことなのかな。
こういうのって本当に難しい。
「今のシェナから見て、私は家畜な感じ?」
「まぁ、ミレイヌ様が可愛いらしいのは認めるので、ワタシから見たら家畜ではなくペットって感じですね」
「ううう。私、白豚ペット枠なんだ……」
そう考えれば、あの結婚式の時にランドが言った言葉が思い出せる気がした。
やっぱり奥様は白豚令嬢って、ダメすぎるでしょう。
今はランドはちゃんと私のことを愛してはくれてるみたいだけど、でもこのポジションを狙う女たちは多い。
現に愛人やら妾でもいいなんて、私に遠慮することなく幾人もの女たちがココに押しかけてきているのがいい例だわ。
「このままじゃダメね。愛してもらっていてもペット枠では困るわ」
「まぁそうですね。そのうち本妻枠盗られちゃったらワタシも職に困りますし」
幸い私には前の記憶もあるし、ココにちゃんと意見を言ってくれる人間もいる。
だからこそ、妻としての役割を果たしてみせるわ!
「うん私、ちゃんとダイエットするわ! そうね、明日から頑張る!」
「あーあ、それって……」
何とも残念そうに私を見るシェナから視線を外しつつ、私は残されたお菓子を頬張った。