科学者VS霊能力者
目の前にいたのは、俺をインチキ霊能力者だとネットに動画を上げて、俺を批判していた自称科学者のおっさんだった。
なぜ、自称かというと、以前は、ちゃんと大学の研究室にいたが、その研究内容が、幽霊などは存在しない科学的検証など、心霊のような超常現象を科学的に否定することに尽力したもので、正直、世間的には、そんなに有益な研究とはみなされなかった。
幽霊の存在を科学的に完全否定できたとしても、それで人の寿命が伸びたり、工業や農業に影響を与えるわけでもないからだ。現在でも、幽霊を信じる人信じない人が混在していても世の中は回っている。
つまり、あまり社会の利益にはならない研究なので、大学は年々研究費を削り、ついには彼を大学から追い出した。で、その代わりに心霊現象を否定する科学者として、ネットに動画を投稿し、霊能者を名乗る相手の元にアポなしで突撃し、一方的に口先で幽霊なんかいないと議論を吹っ掛けて言い負かしていた。しかも、俺の場合は、凸もなく、俺に除霊などを依頼した仮名のAさん、Bさん、Cさんから話を聞いたとして、それをもとに俺をインチキ霊能力者と追及する動画をネットに上げていた。おかげで、俺のことを高額の除霊料を吹っ掛ける強欲な詐欺師と思い込んでいるひとが少なくなかった。
そんなおっさんが俺の前にいた。動画の中では威勢良く、非科学的とあれこれぶった切っているのに、目の前のおっさんは、何かにおびえるように背中を丸めていた。ここは俺の事務所であり、除霊だけでなく、占星術などの占いのアプリとかの開発も、メーカーさんと協力して開発しているので、個人事務所を構えられるぐらいには儲けていた。
「何のご用件ですか」
こちらとしては、門前払いでもよかったのだが、おっさんの奥さんが俺に話し掛けてきて会うことにした。
「実は、最近妻を亡くしてね」
「ああ、そうみたいですね」
おっさんに付き添うように割と美人なおばさんが、そばに立っているのが俺には見えていた。
「や、やはり、いるのかね?」
「おや、おや、幽霊なんかいないと断言なさっていませんでしたか?」
「そ、それは、だが、妻が亡くなってから、まだ、あいつが、私のそばにいる気配がして…」
「死んだ人間が、まだそばにいるようだから除霊して欲しいと? そういう依頼ですか?」
「あ、ああ…、その、これまでの動画は済まなかった。君に関する動画は、すべて削除しよう」
「なるほど、自分で殺した相手が、そばにいる気配がしたら、確かに居心地が悪いでしょうね」
「な、なにを言って…」
「俺には、見えてるんですよ、あなたのそばに立つ、首に絞められた跡のある奥さんの姿がね」
「き、貴様!」
「俺のところに来るより、警察に自首なさった方が、奥さんも気持ちよく成仏なされるんじゃないですか」
「し、失礼する!」
おっさんはカッとしながら出て行った。後日、妻殺しで自首したというネットのニュースを見た。