285 武器狩りの盗賊/ムハドの問答
「武器狩りの盗賊か。クルール地方では珍しいな」
「あの~すみません、武器狩りの盗賊って、なんですか?」
マナトはリートとムハドへ問いかけた。
「その名のとおり、武器の強奪を主目的としている盗賊達っすよ」
リートは、その赤い瞳を目の前の盗賊達に向けながら、坦々とした口調で言った。
「武器を奪って、どんどん、勢力を拡大する盗賊っす。通常の盗賊より、武器が充実している分だけ、手強いことが多いっす」
「見た感じ、目の前のヤツらはまだ勢力拡大前の、小さな組織みたいだけどな」
ムハドが言った。
「だがしかし、これ以上、勢力を拡大させないようにしないとな」
「そうっすね。大量の武器と、人がいれば、その行き着く先は……戦争っすから」
「戦争……」
リートの言葉を聞き、マナトは背中に少し、悪寒が走るのを覚えた。
「盗賊達の中には、国を追い出されて、国に恨みを持っている者達もいたりするんすよね。武器を増やして、あとは盗賊団同士とかで合体して人数増やして、国や村に戦争を仕掛けてゆくということを、いま、目の前にいる盗賊団のヤツらは考えている、かもなんすよ」
「……なるほど」
と、目の前にいる盗賊団の中から、背の高い男が一人、出てきた。
他の盗賊らと同じく、身なりはいかにもどこかの村の村人だが、顔の右頬には切り傷の痕が刻まれいる。おそらく、彼が盗賊の頭だろう。
「……来るか?」
敵を前に、自然、キャラバン達は身構えた。ミトもラクトも、ダガーを構えた。
その盗賊の頭が言った。
「武器を、置いていけ」
――ザッ。
ムハドが、少し前に出た。盗賊の頭と向かい合う。
「ムハドさんが、前に……!」
ミトとラクトが、キラキラした瞳でその光景を眺めている。
と、ムハドが立ち止まり、盗賊の頭へ言った。
「悪いが俺たちは、無駄な戦いはしないようにしてる。お前らの先にあるサライに用があるんだが?」
「いいから、置いていけ。我々も、無駄な戦いはしない」
「へぇ。どこかの国と、戦争でもやるのかい?」
「……お前らには、関係のないことだ」
「……フフフ。おいおい、なんだよ、お前、」
少し盗賊と会話したムハドが、少し困ったように、頭をかきながら笑った。
「お前、根っからのワルって訳じゃないんだな」
「なに!?」
盗賊の頭は、ムハドの言葉に面食らったように、ムハドを睨み返した。
「いや、さっき、俺の言った言葉に対して、欲望の扉か、修羅の扉かが開くかと思ったら、苦しみの扉が開いてしまってんだもん」
「な、なにを、言ってやがる……!!」
「いや、てか、別に復讐とか、報復とか、そんなのでもなさそうだな」
「貴様……ふざけやがって!!」
盗賊の頭の身体が、わなわなと震え出した。
「おいお前、本当は、盗賊なんて、したくないんだろ?」
「だからふざけるんじゃねえ!!……もう、戻れねえんだよ!!」
盗賊の頭が、盗賊団の皆に号令をかけた。
30人の盗賊達が、キャラバン達に、一斉に襲いかかってきた。