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284 道中⑤

 「フフ、いやいや、ちょっとラクト、」

 マナトは苦笑しながら言った。

 「盗賊が待ち遠しいとか、物騒なこと言わないでよ。ねっ、ミト」
 「うん、そうだね。30人くらいが、ちょうどいいかな」
 「えぇ……ミトまで?」

 ミトなら同意してくれると思いきや、完全にラクト側だ。

 「でも、見たいだろ?ムハドさんの戦うところ。へへへ」

 ラクトが笑った。ミトもうなずいている。

 ……参ったなぁ。

 マナト的には、無論、ムハドの強さ云々に関わらず、戦いはできるだけ避け、誰も傷つけず、つけられず、安全な交易を遂行するに越したことはない派だ。

 しかし、このヤスリブでは、盗賊もさることながら、獰猛種の生物との戦いや、ジンなど、それなりに危険と隣合わせ、つまり、日常的に戦いというものが存在する。

 2人にとって、というより、このヤスリブで交易を行うキャラバン達にとって、戦いは、身近なことだった。

 「……まあ、そうなったら、そうなったらで、仕方ないけどさ。そんなに都合よく、盗賊が現れてくれるなんて……」
 「お~い!!盗賊だ!!盗賊がいるぞ!!」

 マナトの話をかき消すように、前方から大声が聞こえてきた。

 ……うそぉおん。

 「きた!きた!きたきたきた……!」
 「盗賊どこどこ?」

 興奮気味に、ミトとラクトが周りを見渡した。

 「あっ!おい、あそこ……!」

 ラクトが商隊の正面を指差した。

 「俺たちも、前に出るぞ!」

 前方へと走る。

 「私も手伝うわ。あなた達は、ここで待ってて」

 召し使い、シュミット、ニナへ言うと、サーシャは走るマナト達に加わった。

 4人で、前方へ。

 「ムハドさん!リートさん!」
 「おう!来たか!」
 「うぃ~っす」

 ラクトの声に、先頭に立っているムハドが意気揚々と応えた。リートは相変わらずだ。

 「さて、どうすっかなぁ」

 ムハドが、腕を組んで、前を見据える。

 少し砂粒の舞う中、ムハド達の商隊の進行を阻むようなかたちで盗賊団が立ちはだかっている。

 ……うわぁ、いるよ。ホントにタイミングいいなぁ、もう。
 マナトは思った。

 人数はおそらく30人ほど。ミトの言っていた、ちょうど、ほどよい人数だ。

 前にアクス王国で見たときの盗賊と、身なりが少し違う。盗賊はそれぞれ、キャラバンの村でも見るような普通の衣服を着用していた。一見、盗賊団というよりも、どこかの村の旅団に見えなくもない。

 だが、ダガーや長剣などの刃物、こん棒やハンマーなどの鈍器、また、ボウガンや弓などの飛び道具と、手に握られている武器はどれも物騒極まりない。

 そして、こちらに向けてくる鋭い敵意の視線が、彼らが盗賊以外の何ものでもないことを、物語っていた。

 「……やたらと武器が豊富だな、アイツら」
 「あれ多分、武器狩りの盗賊っすね」

 リートが、ムハドに付け足すかたちで言った。

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