第六十八話 「モテる奴」
「あァ~腹減ったなァ~」
すっかり
「完全に嫌われてんな。これじゃあ飯なんて食わせてくれねぇよ。わはは」
ウンケイが笑う。すると、三人の後ろから黄色い笑い声が聞こえる。それにすぐさま反応したしゃらくが
「ツバキさんお茶もどうぞ!」
「ツバキさん肩お
「フフフ。ありがとう。君達は優しいね」
「きゃー」
町娘達は、ツバキが優しく微笑むだけで顔を赤らめている。そんな様子に顔を赤らめる者がもう一人。
「くっ・・・!! あんにゃろォ!!」
向こうから見ていたしゃらくが、顔から湯気が出そうな程顏を真っ赤にして、プルプルと震えている。
「わっはっは。見ろしゃらく。あいつモテモテじゃねぇか」
ウンケイが大笑いしてしゃらくを煽る。ブンブクは不思議そうに、二人を交互に見上げている。
「ガルルル・・・!!」
するとしゃらくが、向こうで楽しげなツバキに
「しゃらく! ・・・あれ? なんかすげぇ怒ってるな」
ツバキは苦笑いしながら立ち上がる。しゃらくは
「お
ツバキが町娘達に優しく微笑む。町娘達は再びポッと顔を赤くして、
「やあしゃらく。どうしたんだ? そんなに怒って」
ツバキは苦笑いしながらしゃらくに手を振る。ツバキが目の前まで来ると、しゃらくが遂に口を開く。
「・・・てめェ! おれはなァ、モテる奴が大嫌いなんだ!」
すると正気を失ったしゃらくが、突如ツバキに殴りかかる。バシィ! ツバキは咄嗟にしゃらくの怒りの鉄拳を手で受け止める。その様子にウンケイは笑いが止まらない。
「おいおい・・・落ち着けよしゃらく。そんな事言われたって、向こうから来るんだ、仕方ねぇだろ?」
ツバキが、相変わらず苦笑いしながら弁明する。
「おいツバキ。そりゃ火に油だぜ。わっはっは」
ウンケイが笑う。すると、怒りと憎しみに満ちた更なる殺気がツバキを襲う。
「・・・あ、あれぇ?」
「殺してやらァァァ!!!」
*
ずるずるずるぅ~!! 町の
「おっちゃん! おかわり!」
しゃらくが店の店主に器を差し出しながら、ツバキを睨む。
「おいてめぇ、いい加減にしろよ?」
ウンケイがしゃらくを諭すも、ツバキがすかさずウンケイを制す。
「いいさ、気にするな。しゃらくの取引に応じたのは俺なんだから。さぁ遠慮せず、ウンケイとブンブクも好きなだけ食うといい。金は持ってる」
ツバキが微笑む。
*
時は少し
「落ち着けって!」
ツバキがしゃらくをなだめる。すると、ぐぅ~! しゃらくの腹の虫が鳴く。しゃらくはピタリと動きを止める。
「・・・おうツバキ! 許してほしけりゃア、
無茶苦茶な言い分に、ツバキもウンケイも目を丸くする。
「・・・あ、あぁ。分かったよ」
ツバキが苦笑いする。
*
「あんなの聞く事ねぇのに。でも悪いな、俺達までご馳走になっちまって」
ウンケイがそう言って蕎麦を啜る。隣のブンブクは、人間の姿にはなったが箸の持ち方も
「フッフッフ。いいんだ。俺はしゃらくに嫌われたくないからね」
ツバキが笑う。一方のしゃらくは、店主が持って来たもう何杯目かも分からない蕎麦を受け取るや
「それにしても、
ツバキが、しゃらくに負けじと蕎麦を猛烈に食べ進めるブンブクを見る。
「あぁ。俺もそう思ったぜ。・・・おい、そんなに急いで食うんじゃねぇ。
ウンケイがブンブクを叱る。するとブンブクは突然食べるのを止め、みるみると顔が真っ青になって喉を押さえる。
「ほら言わんこっちゃねぇ」
ウンケイがブンブクの背中をバシバシと叩く。
「フッフッフ」
忙しない三人の様子に、ツバキが笑う。すると、ガラガラ! 突然店の戸が勢いよく開く。見ると、刀を腰に
「なんだしけた店だな! おい! 天そば三つ! さっさと持って来い!」
先頭を歩く男が店主に怒鳴りつけ、三人は乱暴にドカッと席に座る。その隣に座っていた客は大人しく蕎麦を啜っている。
「なんだァ? 行儀のわりィ野郎が来たな」
しゃらくが、入って来た乱暴な三人を見ながら蕎麦を啜る。
「・・・あれは徴兵だな。広場で見かけたぜ」
ツバキが三人を見て呟く。すると店主が奥から出て来て、申し訳なさそうに三人の元へ行く。
「・・・すいやせん、お客さん。・・・今丁度蕎麦が切れちまって、店閉めようと思ってたんです。どうもすいやせん」
店主がそう言って何度も頭を下げる。すると、三人のうちの二人が立ち上がり、店主に詰め寄る。
「何だと貴様? 蕎麦がねぇだと?」
一人が店主の胸ぐらを掴み上げる。
「他の客共は食ってるじゃねぇか。それともなんだ? 俺達には食わせねぇってのか?」
「め、
店主が必死に謝るも、男はお構いなしに店主に詰め寄る。立ち上がっているもう一人の男は、その様子をニヤニヤと笑いながら見ており、一方で座ったままの三人目の男は卓上に足を上げ、気だるげに様子を見ている。
「わりィわりィ。蕎麦はおれが全部食っちまった」
すると様子を見ていたしゃらくが、三人に声を掛ける。突如入って来たしゃらくを、三人が一斉に睨む。
「あぁ? 誰だてめぇ? 蕎麦を全部食っただと?」
店主の胸ぐらを掴んでいた男が店主を離す。店主はその場に
「あァ。だから蕎麦はねェ。わりィな。帰ってくれ」
しゃらくがそう言い放つと、再び呑気に蕎麦を啜る。すると立っていた二人の男が、ツカツカとしゃらくの方へ近寄って来る。しかし、しゃらくは気にせず器を持ち、蕎麦の汁を飲み干す。怯えたブンブクは、慌ててウンケイの背中に隠れる。
「貴様。ナメた口効きやがって。死にてぇのか?」
男がしゃらくに詰め寄る。すると、しゃらくがニィっと笑う。
「てめェら表出やがれ。食いもンの恨みはこえェぞ」
完