第六十五話 「先手」
夕暮れになり、真っ赤な夕日が城を赤く照らしている。城の外広場では、
「何だよみんな、やる気ねェなァ」
しゃらくが鼻をほじりながら
「
そう言うウンケイの肩には、
「フフフ。
しゃらくの反対隣のツバキが
「あのおねェちゃんはどこ行ったんだ?」
しゃらくが周囲をキョロキョロ見回しながら、ツバキに
「・・・あれ? しゃらくも気付いてたの?」
ツバキが驚いた表情でしゃらくを見る。ウンケイは不思議そうに二人を見る。
「あのでけェ二人と
「あぁ、あれ女なのか? 何でこんなとこに」
ウンケイが眉を
「しゃらくはどうして分かったの? 僕らはまだしも、君は遠くから見ていただけなのにさ」
ツバキがしゃらくに尋ねる。
「あァ、おれは匂いで分かンだよ」
しゃらくがニッと笑う。
「え、キモ」
ツバキがしゃらくと少し距離を取る。
「
「フフフ。
ツバキが微笑む。
「おいおい良いのか? お前の情報をベラベラと
ウンケイがしゃらくを
「ん? いいだろ。だって仲間なんだろ?」
しゃらくがツバキを見てニコリと笑う。
「あぁ
ツバキもニコリと笑う。すると突然、前の方がざわざわと
「よくぞ集まってくれた! これより、この国を
「うおおおおおおお!!!!」
アドウの言葉に、先頭の兵達が
「・・・これは一体、・・・どういう事だ?」
城を出た兵達が目を丸くしている。何と目の前に広がっていたのは、町人達が賑やかに生活する、活気ある城下町の光景。一見普通の光景に思えるが、この町に関しては
「あれ!? ウンケイ、町に人がいるぜ!?」
それは、後方のしゃらく等にも衝撃を与えていた。
「・・・どうなってやがる?」
ウンケイも目の前の光景に驚いている。
「・・・フフ。これは、先手を打たれたって事かな?」
ツバキは驚きつつも、ニヤリと笑っている。
「アドウ様! これは一体!?」
アドウを先頭にした
「・・・今朝捕まえた
アドウが振り返らず町を見つめながら、後ろの兵に尋ねる。
「・・・それが、
兵が顔を汗で
「・・・何?」
アドウの低く鋭い声が乾いた空気を伝う。
「・・・あの地下扉と地下牢は、中から開けることは不可能です。・・・恐らくですが、何者かが手引きしたものかと・・・」
すると
「・・・ククク。わあっはっはっは!! 面白い! この中に龍の手先が潜んでいるという訳か!」
アドウが豪快に笑う。その様子に兵達は動揺している。
「・・・いやしかし、この兵達の中にいるかどうかは・・・」
「いや! この中にいる
すると、アドウが馬を町の方へ進める。後ろの兵達は慌ててそれに付いて行く。
「・・・アドウ様、よろしいので・・・?」
兵の一人が恐る恐る尋ねる。
「ククク。問題ない。国境にいる兵からは何も報告は来ていない。それはつまり援軍はないという事だ。城にも十分兵は残してある。それに手先を忍ばせていたのはこちらも同じ。奴の位置は常に
アドウがニヤニヤと笑いながら馬を進める。
「
一人の兵が腕を組みながら呟く。
「
アドウが再び豪快に笑う。二百もの兵達はアドウに続き、賑やかな城下町を通り過ぎる。
やがて日はすっかりと暮れ、アドウの率いる軍は夜の険しい山道を行く。兵達は
「あァ腹減ったァ!」
フラフラになりながら歩くしゃらくが、舌をだらりと垂らしながら力なく呟く。
「さっきあんなに食ったろ。人の分まで」
後ろを歩くウンケイがしゃらくを小突く。
「歩いたら腹減るだろ! にしても、龍ってのはこんな山の中にいんのかよ? 蛇か何かなのか?」
「龍神は人の姿をしているらしいよ」
ツバキが後ろのしゃらくに答える。
「それはそうと、・・・」
するとツバキが、
「何だこれ?」
「そいつを知ってるか?」
しゃらくと後ろのウンケイ、ブンブクが紙を覗き込むと、そこには筆描きで、長い
「さァおれは知らねェな」
「俺も見た事ねぇな」
二人が絵を見ながらそう答えると、ツバキはニコリと笑う。
「そうか」
ツバキはそう言うと、しゃらくから紙を受け取り、懐に
「そいつを探してんのか?」
ウンケイが尋ねる。
「まあね」
ツバキは前を向き直る。そうして一行は山道を進み続け、やがて山頂の巨大な洞窟の前に
「行くぞ!・・・ん?」
ゴォォォ。先頭のアドウが声を上げた直後、洞窟の中から何やら音が響いて来る。馬に乗った兵達が洞窟の中を覗き込む。
「水だ!! 逃げろぉ!!」
「うわぁぁぁぁぁ!!!」
完