第二十八話 「次なる地」
日が昇り、城下町は朝焼けに染まっている。
「もう行っちまうのかい? もうちょっと、ゆっくりしていけばいいのに」
「あァ。世話んなったなおっさん」
すると、お渋が
「しゃらくさん、ウンケイさん。本当にありがとう。
お渋は深々と頭を下げる。後ろの侍も、それに続いて頭を下げる。
「おいおい! そんな
しゃらくが慌ててお渋へ駆け寄る。しゃらくの言葉を聞き、お渋はゆっくりと顔を上げるが、その目には涙を一杯に浮かべている。
「・・・本当に、本当にありがとう・・・」
お渋は涙を流しながらも、ニコリと微笑む。
「何の罪も無い、特にあんたのような人は、
ウンケイがお渋に優しく
「あんたも胸を張んな。あんたがビルサに付く事で、助かった命もあるだろ」
ウンケイが隻腕の侍に微笑む。侍の目頭が熱くなる。
「これからはこの人達を守ってやれ。もう腹切るなんて
「・・・ははは。そうだな。死んでは誰も守れんからな」
侍は袖で涙を拭う。すると、お渋の前で黙っていたしゃらくがついに口を開く。
「泣いてるお渋ちゃんも可愛いなァ」
「てめぇはそれしか頭にねぇのか!」
ゴッツン!!! ウンケイから
「全く。こいつがまた変な気を起こす前にずらかるぜ」
ウンケイが、完全にのびているしゃらくを大荷物と共に抱える。
「・・・あんたも色々と大変そうだな」
侍が苦笑する。すると、ブンブクがお渋の足元へ駆け寄り、顔を
「元気でねブンブクちゃん。お母さんに会えるといいね」
お渋はボロボロ涙を流して、ブンブクを撫でる。ブンブクの方もクンクン鳴いて、別れを
「それじゃあ行くぜ。
「ええ。そっちもね」
しゃらくを抱えたウンケイとブンブクが町の外へと歩き出す。お渋と侍は三人の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
*
「うわァァァァん!! お渋ちゃァァァァん!!」
山道の中に悲鳴が響く。
「黙れ! 毎度毎度いい加減にしやがれ!」
ゴッチン!! 再びウンケイがしゃらくに拳骨を入れる。
「いでェェェェ!!!」
「てめぇ、忘れてねぇだろうな。てめぇのそれが原因で、俺達は一度
ウンケイがしゃらくの
「いだだだごめんよ!」
しゃらくは、もはや悲しんでか痛がってか分からないが、ボロボロと涙を流している。一方のブンブクは構わず、鼻を動かし
「ったく。てめぇの調子に俺も
ウンケイがしゃらくの頬から手を離す。しゃらくは、自分の
「ワンワン!」
ブンブクが後ろの二人の
「ワンワンって、犬かよ」
「いや、なんか見つけたらそう鳴けっておれが教えた。わっはっは」
しゃらくが笑う。
「動物に鳴き方教える人間なんて初めて見たぜ」
ウンケイとしゃらくは、ブンブクの後をついて行く。三人は山道を
「おいおいどこへ行く気だ? 本当に何かあるのか?」
ウンケイが文句を言いながら歩いていく。すると
「おぉ! ちょうど
ウンケイが、ブンブクの頭をわしゃわしゃと撫でる。ブンブクは嬉しそうに尻尾を振っている。
「おォォ! 水だぜ! ちょうど喉渇いてたんだ!」
しゃらくが、嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねる。すると、ウンケイがまたも鬼の
「てめぇ、喉が渇いただと? せっかく町で貰った飲み水を、全部飲み干したのは誰だ?」
「ひィ! ご、ごめんさい!!」
ウンケイの気迫にしゃらくが泣く。すると、ブンブクもしゃらくの足に噛み付く。
「いでででェ!! みんなごめんよォ!!」
「わっはっは! おいブンブクこっち見ろ」
ブンブクがしゃらくの方を向く。ピューー。しゃらくが口から水を吹き出し、ブンブクの顔面に浴びせる。
「わァっはっはっはァ!!!」
大笑いするしゃらくに、ブンブクはすかさず飛びかかる。
「どわァァァ!!」
バッシャァァン!!! 二人が水の中へ沈む。
「ったく、何やってんだバカども」
ウンケイが
「てめェ! やったなァ!?」
バッシャァァン!! 今度はしゃらくが飛びかかり、大きな
*
日が暮れ、山を月明かりが照らしている。三人は、先の川辺にて火を囲んでいる。
「ん〜! うめェ!!」
しゃらくが、串に刺して焼いた川魚をむしゃむしゃと
「大漁大漁。お前の能力が初めて役に立ったな。わははは」
「おい! 初めてとはなんだ! むしゃむしゃバリボリ」
しゃらくは
「おい喉に詰まらせるぞ。ゆっくり食え。もうこの魚は逃げねぇよ」
すると、ブンブクの魚をしゃらくが食べる。
「ああ、逃げねぇが盗られるな。わははは」
ウンケイが笑う。ブンブクはしゃらくに噛み付く。
「だァァァ!! いでェ!!」
川辺で
「あいつら何者だ? どこかの侍か?」
「誰にせよ侵入者だ。俺達の
しゃらく達は、男達に全く気付かずに笑っている。
「
「いや、まずは報告が先だ。“
完