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第十九話 「どの道」

 「・・・死ぬとこだった」
 城内地下にて、ウンケイが子狸を抱き、子狸が(ねずみ)を抱いている。そして目の前の武器庫には、爆炎がメラメラと揺れている。
 「・・・あーあー、燃えちまった。こりゃあ、やばいかもしれねぇな」
 ウンケイが抱いていた子狸を見る。子狸はおろか、その(ふところ)にいる鼠まで不安そうに見上げている。
 「これで十二支(えと)将軍を完全に敵に回しちまった。お前ら同罪だからな。わははは」
 子狸の顔が青ざめる。ウンケイの言葉は分からないが、何となく状況のまずさは理解しているようである。すると、鼠が飛ぶように逃げていく。
 「まぁ一()ず、ここを出た方がいいな。この爆発じゃあ地下どころか、この城が危ねぇ」
 すると、何人かの侍達の声が聞こえて来る。ウンケイと子狸は陰に身を隠し、息を潜める。
 「おいおい嘘だろ!? 武器庫が燃えてる! すぐにビルサ様に報告だ!」
 「こりゃあやばいぜ! ウリム様へ献上(けんじょう)する武器が全て灰になっちまう! 急いで水を()んで来い!」
 侍達が、目の前の真っ赤に燃え上がった武器庫に、(あわ)てふためいている。ウンケイと子狸は外へ出る為、侍達が()けていく方へ気づかれぬよう付いて行く。すると、通路の天井に隠し扉があり、そこへ侍達が入っていく。
 「あそこから出れそうだな」
 すると、ウンケイが陰から出て来て、侍達の前に姿を現す。
 「何だ貴様!? どこから入って来た!?」
 侍達が慌てて刀を抜く。
 「どこからって、ちゃんと落とされて来たぜ」
 ウンケイが薙刀(なぎなた)を構え、ニヤリと笑う。
 「くそ! 武器庫に火を付けたのは貴様だな! やっちまえぇ!!」
 侍達がウンケイに向かって来る。ガキィィン!! ウンケイが薙刀を振り、侍達が吹っ飛んでいく。
 「武器庫は悪かったが、ありゃ思いがけねぇ事故だ。悪く思うな」
 倒れた侍達を横目に、ウンケイが子狸を脇に抱えて、天井の扉を抜ける。


 一方、城内を下へ向かってしゃらくが駆けていく。
 「待ってろビルサァ! そしてタヌキはどこだァ!?」
 腹ごしらえをして、すっかり息を吹き返したしゃらくが、煙が出る勢いで階段を下りていく。そのまま廊下(ろうか)を走っていると、目の前の交差した廊下から、侍が吹っ飛んでくる。
 「どわァァァ!!! びっくりしたァァァ!!」
 しゃらくが驚いて飛び上がる。吹っ飛んできた侍は、顔を殴られたようで気を失っている。すると、侍が飛んできた廊下からウンケイと子狸が歩いて来る。
 「あ! ウンケイ!!」
 「げ! しゃらく!」
 子狸はしゃらくに駆け寄り、ニコニコ笑いながら尻尾を振って、しゃらくの足に抱きつく。しゃらくは気まずそうにウンケイから顔を()らせている。
 「な、何してんだよ。こんな所で」
 しゃらくが口を尖らせている。
 「十二支(えと)将軍の幹部相手に、お前一人じゃ心許(こころもと)ねぇからな。来てやった」
 ウンケイが腕を組んでニヤリと笑う。
 「何ィ!? おれが弱いってのか!? この野郎ォ!!」
 しゃらくが顔を真っ赤にして、ウンケイに飛びかかろうとするが、ウンケイに手で制止される。
 「わはは。まぁ、目的は同じなんだ。一旦協力しようぜ。それはそうと、お前こそこんな所で何してんだ? ビルサは倒したのか?」
 「いや、まだ。下からでけェ音が聞こえたから、下にいると思って。お前こそ会ってねェのか?」
 「ああ、その音は俺達の仕業(しわざ)だ。いや、こいつの仕業だが。ビルサは見てねぇぞ」
 しゃらくとウンケイの会話を、子狸が尻尾を振って聞いている。
 「お前何したんだよ? あんなバカでけェ音。お(しぶ)ちゃんが心配してたぜ」
 しゃらくが子狸に尋ねる。子狸はしゃらくの言葉を聞き、説明しようと身振り手振りをしながら、クンクンと鳴いている。しゃらくは、うんうんと(うなず)いて聞いている。ウンケイはその様子を不思議そうに見ている。
 「ねずみィ? わっはっは。バカだなお前ェ」
 しゃらくが子狸の話を聞き、大笑いする。子狸は嬉しそうにニコニコ笑っている。
 「そうか。お前の神通力(じんつうりき)、”牙王(がおう)”は獣の力。獣とは話も出来るって訳か」
 「どこを爆発したんだ?」
 しゃらくがウンケイに尋ねる。
 「武器庫だ。十二支(えと)将軍のウリムへ献上する武器が保管してあったんだが、全部爆破しちまった。わははは。すまん」
 ウンケイが笑う。それに対し、しゃらくもニッと笑う。
 「そんじゃア、これから俺達は十二支(えと)将軍から狙われるって事か? わっはっは! 最高だな! 早く仲間集めなきゃなァ」
 置かれた状況とは対照に、二人は大笑いしている。子狸は二人をキョロキョロと見上げている。
 「まあどの道、ビルサを倒せば狙われるからな。それよりまず、ビルサがきっとカンカンだろうぜ」
 「どうせぶっ飛ばすんだ。関係ねェよ。カンカンってなら、下りて来るかな? ここで待つか?」
 「いや・・・」
 ウンケイがニヤリと笑う。


 城内最上階の大広間。ビルサが広間内をウロウロ歩きながら、武器庫の知らせを今か今かと待っている。(かたわ)らでは、家老(かろう)が黙って座っている。
 「ビルサ様! ご報告です!」
 (ふすま)の向こうから声が聞こえる。家老が襖を開けると家来の侍が、正座をして頭を下げている。
 「どうだ!? 武器は無事か!?」
 ビルサが物凄い剣幕(けんまく)で、侍の胸ぐらを掴み問い詰める。
 「い、いえ! やはり先程の衝撃は、武器庫内の爆発によるもののようです! 武器庫内は火の海。現在、消火にあたっておりますが、恐らく・・・」
 ビルサが手を離し、その場に膝を着く。顔を真っ青にし、油汗を流している。侍は初めて見るビルサの(おび)えた表情に、驚愕(きょうがく)している。
 「・・・ビルサ様! お気を確かに! こういう時こそ冷静に・・・」
 「黙れ!! あの小僧、やりおったな! 望み通り俺の手で殺してやる! 奴はどこだ!!」
 ビルサが家老の制止を()()け、激昂(げきこう)している。侍はその鬼のような姿にブルブル震えている。
 「おいビルサァァァ!!! おれ達はここだァァァ!!!」
 すると、外から大きな声がする。顔を真っ赤にしたビルサが、のしのしと窓の方へ行き、顔を(のぞ)かせる。外の門の中の広場で、しゃらくとウンケイがこちらを見上げている。
 「わりィ!! 間違って武器庫燃やしちまった!!」
 しゃらくが大声で謝罪し、頭を下げる。隣のウンケイも頭を下げている。窓から顔を出すビルサの、窓枠を掴む指に力が入る。すると、バキィン! 窓枠を握力だけで破壊する。
 「調子に乗るなよ小僧(こぞう)。あれが何か分かってんのか?」
 ビルサの低く鋭い声が響く。
 「知らねェよ! 謝ったからいいじゃねェか! それより早く下りて来い! おれ達はお前をぶっ飛ばしに来たんだ!」
 しゃらくが腕を(まく)ってニヤリと笑う。ウンケイも薙刀に巻かれた布を(ほど)く。ビルサは今にも頭の血管が切れそうな程、顔を真っ赤にする。
 「・・・死にてぇらしいな。今行く」
 バッ! ビルサが窓から飛び出す。(あで)やかな羽織が宙を舞う中、ビルサは物凄い勢いで地上へ落ちて来る。ガッシャァァン!!! 衝撃で地面が割れる。そこには土煙が立ち上り、ビルサの姿は見えない。しゃらくとウンケイは、立ち上る土煙の先に目を()らしている。刹那(せつな)、二人はゾクリと背筋が凍る。二人の背後に大きな影が立っている。二人がすぐに振り返ると、そこには大柄なウンケイよりも(はる)かに大きい男が立っている。それは(まぎ)れもなく、十二支(えと)将軍の幹部にして“恐土竜将(もぐら)”の異名を持ち、屈強(くっきょう)な侍達から恐れられる男の姿。二人はすぐに、ビルサから間合いを取る。
 「へへ。さすがに強そうだなァ」
 しゃらくとウンケイが身構える。
 「遊んでいる暇はねぇ。すぐに殺してやる。さて、どっちから死にたい?」

 完

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