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第二十話 「ねじまき」

 「さて、どちらから死にたい?」
 ビルサが不敵な笑みを浮かべる。しかし、しゃらくとウンケイもニヤリと笑う。すると、しゃらくに赤い模様が浮かび、爪や牙が伸び、体中の筋肉が盛り上がる。
 「ほう。貴様、神通力(じんつうりき)使いか」
 ビルサがわずかに眉を(ひそ)める。しゃらくがニヤリと笑う。
 「ガルルル。倒れんのはてめェだよ!」
 ビュッ!! しゃらくが勢いよく飛び出す。勢いのまま、しゃらくがビルサに向かって右腕を振りかぶる。
 「“虎猫鼓(どらねこ)”ォォ!!!」
 しゃらくがビルサに掌底(しょうてい)()り出す。すると、ビルサがその巨体に見合わぬ素早さで、攻撃を(かわ)す。
 「何ィ!?」
 「グフフフ。なかなか速いが、それでは届かんぞ」
 驚くしゃらくとは対照に、ビルサは涼しい顔をしている。すると、攻撃を躱したビルサの後ろで、ウンケイが薙刀(なぎなた)を振りかぶっている。ガキィィン!!
 「!?」
 ウンケイが振った薙刀を、ビルサが片腕で弾く。そして勢いのままウンケイを蹴り飛ばす。その威力は凄まじく、大柄なウンケイが吹っ飛んでいく。
 「ウンケイ!!」
 「他所見(よそみ)している場合か?」
 バキィィン!!! ビルサがしゃらくに腕を振る。しゃらくは腕で防御するもウンケイ同様、吹っ飛ばされる。
 「うっ!!」
 しゃらくが壁に激突して止まる。傍ではウンケイが片膝(かたひざ)を着いている。
 「あいつ今、何しやがった?」
 ウンケイが驚いている。
 「・・・いてて」
 しゃらくが顔を(ゆが)ませている。
 「おい、その腕・・・」
 ウンケイに聞かれしゃらくが腕を見ると、大きな切り傷が出来ており、血だらけになっている。
 「げ! 何だこりゃア!?」
 「俺の刃も弾かれた。これがあいつの神通力(じんつうりき)か」
 しゃらくとウンケイが、向こうに立つ敵を(にら)む。
 「グフフ。どうした? さっきの威勢(いせい)は終わりか?」
 ビルサがニヤリと笑い、しゃらく達の方へ歩み近づいて来る。
 「ガルルル! バカ言え! こっからだ!」
 しゃらくが鋭い爪を()き出し、両腕を交差させる。ヒュッ! しゃらくが姿を消す。するとビルサが両腕を振り上げる。
 「“獣爪十文閃(じゅうもんせん)”!!」
 ガキィィィン!!! ビルサが下向きに両腕を交差させ、しゃらくの攻撃を防ぐ。しかし、しゃらくはビルサの背後に回っており、そのままビルサに飛びかかる。ガキィン! ビルサが振り向き、素早くしゃらくの鋭爪を腕で弾く。ガキィン! ガキン! ガキン! ガキン! 二人による、目にも止まらぬ攻防が繰り広げられる。すると、しゃらくの攻撃を受け続けるビルサの背後で、ウンケイが構えている。
 「獲った!」
 ガキィィィン!!! するとビルサ、しゃらくの攻撃を片腕で防ぎ、ウンケイの薙刀をもう片方の腕で防ぐ。
 「何!?」
 見るとビルサの腕が、黒く変色し螺旋状(らせんじょう)に高速回転しており、薙刀との間に火花を散らしている。しゃらくとウンケイは、素早く後方に飛び、ビルサとの間合いを取る。
 「それがてめぇの力。どいつもこいつも面倒くせぇな、神通力使いってのは」
 ウンケイが薙刀を構え直す。しゃらくもビルサを睨む。
 「グフフフ。如何(いか)にも。死ぬ前に特別に教えてやろう。これが俺の神通力、“螺肢旋巻(ねじまき)”。四肢(しし)を硬化し高速回転させ、あらゆる物を(えぐ)り取る力だ」
 ギュイィィン!! 袖を(まく)り、突き出したビルサの腕が、音を立てて高速回転している。その轟音(ごうおん)は、空気まで振動させているようで、距離を取っている二人の体にまで響いてくるようである。
 「なるほどな。その力で、穴掘ったり武器を作ったりしてるって訳か。て事は、てめぇをぶちのめせば、ウリム軍の武器の生産が止まり、俺達は十二支(えと)将軍にかなり(うら)まれるな。おいしゃらく! どうする?」
 「最初(はな)っから決まってんだろ!」
 「だよな」
 しゃらくとウンケイがニヤリと笑う。二人の様子を見たビルサが、眉を(ひそ)める。
 「貴様ら、何か勘違いしているようだが、俺を倒すだと? 今見せた(はず)だ。貴様らが望む未来など夢のまた夢」
 「どうかなァ!」
 ヒュッ! ガキィィン!! しゃらくの鋭爪とウンケイの剛腕(ごうわん)が激突する。ガキン! ガキン! ガキン! しゃらくは飛ぶように攻撃し、ビルサとの体格差をものともしない。一方のビルサも、素早くしゃらくに反応し、轟音(ごうおん)(とどろ)く腕を振り回す。二人の激しい攻防は、辺りに火花を散らし、近寄(ちかよ)(がた)気迫(きはく)(あふ)れている。
 「威勢がいいだけはあるようだが、それでは俺を倒すには程遠い」
 目にも止まらぬ打ち合いの中、ビルサがニヤリと笑う。
 「お前こそ! そんな動きじゃア、おれは倒せねェぜ!」
 しゃらくも負けじと笑う。
 「いちいち(いら)つかせる野郎だ。だが遊びは終わりだ。貴様ごときに手間取ってはいられねぇからな」
 そう言うと、ビルサがしゃらくの攻撃を弾き、腰を落として右腕を構える。しゃらくが目を見開く。
 「“螺旋(らせん)突急(とっきゅう)”」
 ギュイィィィン!!! ビルサが、高速回転する右腕を物凄い速さで突き出す。しゃらくは間一髪(かんいっぱつ)で、身をよじらせて躱す。
 「ほう。よく躱したな。だがこれならどうだ?」
 すると、ビルサが両腕を交互に素早く突き出す。
 「“連烈(れんれつ)螺旋(らせん)突急(とっきゅう)”」
 ギュイィン! ギュイン! ギュイン! しゃらくは懸命(けんめい)に躱そうとするが、徐々(じょじょ)に体に(かす)れていく。ズバババァァァ!!! そしてビルサの猛攻がしゃらくの体を撃ち抜く。
 「ゔゥッ!!」
 ズバババァァ!!! ビルサに連打を打ち込まれ、しゃらくが吹っ飛ばされる。ビルサは、腕の回転を()めニヤリと笑う。
 「おい! 平気か!?」
 ウンケイがビルサに向かって構えたまま、壁に激突したしゃらくを気に掛ける。しゃらくの体は血だらけで、前の戦いの傷も開いてしまい、かなりの出血量である。
 「おいおい。死んでねぇだろうな?」
 ウンケイが振り向き心配する。しかし、しゃらくは満身(まんしん)創痍(そうい)の状態でニヤリと笑う。
 「ちくしょォ。・・・(いて)ェなァ」
 「ったく。早く立ちやがれ」
 しゃらくとウンケイがビルサを向く。ビルサは依然(いぜん)余裕の表情で、ツカツカと歩み寄って来る。
 「グフフフ。次はお前か坊主?」
 「気を付けろよ。俺はこいつより手強(てごわ)いぞ」
 ウンケイがニヤリと笑い、腰を落として薙刀を握り直す。
 「何ィ!? おれより強ェだとォ!?」
 しゃらくが顔を真っ赤にする。
 「ほう。少しは手応(てごた)えがあんだろうな?」
 ビュッ! ガキィィン!!! ウンケイとビルサがぶつかる。キィィン! キィン!! ガキン! ウンケイが猛然と薙刀を振る。ビルサもウンケイの攻撃を弾いていくも、力強くも素早く繰り出されるウンケイの攻撃に、防戦一方になっていく。しかしビルサは依然、涼しい顔でいなしていく。するとすかさず、しゃらくが飛びかかり、バキィィィ!!! ビルサの顔面を殴り飛ばす。ビルサの巨体は後方へ飛ばされるも、倒れることはなく口から垂れる血を手で拭う。
 「おい! 余計な真似してんじゃねぇ!」
 「うるせェ! 誰が弱ェだとォ!?」
 しゃらくとウンケイがいがみ合う中、ビルサは静かに二人を睨みつける。
 「・・・貴様ら。どうやら調子に乗らせ過ぎたようだが、今のような隙はもう無いと思え」
 ギュイィィィン!!! ビルサの腕が、再び回転し轟音を轟かせる。しゃらくとウンケイも再び構え直す。
 「おい貴様らぁ! 武器を捨てろぉ!」
 後方から聞こえる声に振り返ると、ビルサ軍軍隊長のコルゾが立っており、片腕にお(しぶ)を抱え、首元に刀を向けている。
 「お、お渋ちゃん!!!」

 完

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