第十八話 「火付け役」
ビルサ城内、地下へウンケイと子狸が落ちていく。すると子狸が、落ちていく中、頭の上に前足で葉を抑える。そしてボンッと全身が煙に包まれる。煙が晴れると、子狸の体が薄く広がり、下からの気流を受けて気球のようになる。そしてウンケイを掴み、二人はフワフワと落ちていく。二人の下には、無数の針先が連なっている。
「ふん!」
バリィィン!! ウンケイが
「ありがとな、助かったぜ。お前の
ウンケイに頭を
「一体なんだここは?」
暗い中ウンケイが歩みを進める。子狸はおろおろしながら、ウンケイについて歩く。すると、壁にもたれかかって倒れているボロボロの着物を着た
「・・・」
ウンケイは誰とも知らない亡骸の前にしゃがみ、黙って手を合わせ目を閉じる。子狸は不思議そうにウンケイを見つめている。
「俺は寺にいたが、
そう言うとウンケイが、不思議そうに見ている子狸の方を向き、ニコリと笑う。子狸は更にポカンとしている。するとウンケイが立ち上がり、奥へ続く暗い通路の先を見つめる。
「お前この先分かるか?」
ウンケイが子狸に
「悪いが借りるぜ」
すると、ウンケイが薙刀をシュッと
「ここは何の為の地下だ? 侵入者をぶち込んどくもんじゃ無さそうだな」
長く続く通路は、松明の灯りでは全く
「何だこりゃあ」
子狸は、前足で扉をカリカリと触っている。
「ここを開けろって?」
子狸はウンケイを見上げ、尻尾を振っている。扉にかかっていたであろう
「・・・武器庫か?」
周囲を見渡しているウンケイとは対照に、勝手知ったる子狸は我が物顔で中へ入っていく。
「・・・しかし一城の武器庫にしては、数が多過ぎねぇか?」
武器をよく見ると、武器のすべてに「ウリム将軍献上品」の札が貼られていることが分かる。武器庫の奥には、加工場のような部屋も見える。
「・・・なるほど。ここで武器を作って、ウリムに送ってる訳か」
「ワン!」
子狸が奥の方で、ウンケイを見つめて尻尾を振っている。
「ワンって、犬かよ。そっちに何かあんのか?」
ウンケイが子狸の元へ行くと、武器の陰にある壁に人一人分程の大きさの穴が開いている。子狸はその穴を指差し、尻尾を振っている。
「抜け穴か。これが城のどっかに通じてるんだな。でかしたぜ」
ウンケイが子狸の頭を撫でる。子狸は嬉しそうに尻尾を振る。
「だが、俺が通るには
ウンケイが子狸に松明を差し出す。子狸は松明を口で受け取り、ウンケイの手元を照らす。ウンケイは薙刀の
「ぶっ壊すのは訳ねぇが、壁が崩れちゃ困るからな。全く面倒くせぇな」
ウンケイは壁が崩れないよう、慎重かつ力を込めて壁を突く。すると、松明を
「チッ。意外と固ぇな」
ウンケイがブツブツ言いながら壁を突く。子狸は、目の前で動き回る鼠に飛びつきたいところを我慢し、咥えた松明でウンケイを照らしている。しかし、それでも動き回る鼠につい我慢できず、松明を咥えたまま鼠を追いかけてしまう。そのせいでウンケイの周りは真っ暗になる。
「おい! どうした!?」
武器庫内を逃げ回る鼠を子狸が追いかける。しかし子狸は、松明を咥えたまま走り回る為、武器庫内の
「おい
ウンケイの制止も聞かず、いや元々人間の言葉など理解出来できない為、火を咥えて走り回る。武器に貼られた「ウリム将軍献上品」の札も燃えていく。ウンケイも子狸を追いかけて捕まえようとする。そして、ようやく子狸を捕まえ抱き上げる。
「この馬鹿野郎! どうしたんだ急に」
ジリジリジリ。すると、ウンケイの足元で何やら
「やばいっ!!!」
ドガァァァァン!!!!
城内の調理場。しゃらくとお
「な、なんだァ!?」
すると、お渋が悲鳴を上げて、咄嗟に近くにいるしゃらくにしがみつく。案の定、しゃらくは鼻の下を伸ばして、ニマニマと笑っている。
「でへへ♡ お渋ちゃん! 俺がそばにいるから安心しな!」
すると、お渋はすぐにしゃらくから離れる。
「ごめんなさい! 驚いてしまって・・・」
しゃらくは悲しそうに肩を落とす。
「それにしても何の音かしら?」
「・・・下から聞こえたなァ。もしかして、ビルサは下にいんのか?」
「・・・いや。あの男は、わざわざ出向いて来るような男じゃないと思うわ。まさかブンブクちゃんに何かあったんじゃ・・・」
すると、しゃらくが目の前にあった食べ物を急いで食べ終える。そして立ち上がる。
「ごちそうさん! お渋ちゃんありがとう! あの狸ならたぶん大丈夫だ。お渋ちゃんはここでじっとしててくれよ。そんじゃ、行ってくるわ」
しゃらくがニッと笑う。お渋はコクリと
一方、城内最上階の大広間。爆音と大きな揺れに驚いた女達が、悲鳴を上げてビルサにしがみつく。
「何だ?」
ビルサが
「・・・何でしょう? 下からのようですね。あの男の
ビルサの眉がピクリと動く。
「・・・原因はそれしかねぇか。派手に暴れてやがって、俺の城を壊す気か。そろそろ
ビルサが
「ビルサ様。私達どうなるの?」
女達がビルサに寄り添い尋ねる。
「なに、大した事ではない。俺がわざわざ出向かねばならんのは気に入らんが、ちとゆっくりしていろ」
ビルサが盃をカンッと置き、のっしりと立ち上がる。
「申し訳
「構わん。
家老がビルサに頭を下げる。ビルサは外に向かって歩き出す。
「しかし、あの男もなかなかの暴れ様。まるで爆弾が爆発したかのようでしたね」
ビルサがピタリと止まる。そして
「武器庫を見てこい!! 早くしろぉ!!!」
完