第十七話 「恐土竜将」
階下から
「グハハハ! おいじじい! 酒が足りねぇぞ!」
「し、しかしビルサ様! 今はそれどころでは・・・」
「俺が出向く事ではないのだろう? 貴様がそう言ったんだぜ? それに万一ここへ上がって来たところで、俺の敵ではねぇ。ならば何をしようが問題無かろう。違うか?」
「・・・い、いえ」
「たかが
ビルサが
一方、城内下階。ウンケイとその前で
「お前、化け狸か?」
子狸は仰向けのまま固まっている。口からは、ベロンと舌が垂れている。するとウンケイが顔を近づける。
「お前はこの城のもんか? 邪魔をすれば殺すぜ」
子狸が滝のような汗をかき、ブルブルと震えている。どうやら、ウンケイの言葉の意味は分からないが、
「そうか。じゃあ邪魔すんな」
ウンケイが子狸の脇を通り過ぎようとする。すると子狸は、何を思ったかウンケイの後ろを付いて行く。ウンケイはそれに気が付き、立ち止まって後ろを振り返る。
「何だてめぇ。邪魔すれば殺すと言った筈だぜ」
ウンケイがギロリと
「・・・何がしたいんだてめぇは?」
すると、子狸が立ち上がり、身振り手振りで
「・・・外に連れてってほしいのか?」
ウンケイが窓の外を指差し、子狸に
「勝手に行けよ。俺は今忙しいんだ」
ウンケイが踵を返しそうになると、子狸がウンケイの足に抱きつき、何度も首を振る。
「おい! 邪魔だ、
ウンケイが足を振るが、子狸は泣きながら必死にしがみついて離れない。ウンケイは呆れ、足を下ろす。
「分かったから離れろ! それじゃあ交換条件だ。俺はここの一番上に用がある。てめぇは俺をそこへ案内しろ。そうしたら外へ連れて行ってやる」
ウンケイがしゃがみ、身振り手振りで子狸に伝える。子狸は分かったか分からずでか、何度も頷きながら尻尾を振っている。
「よし。契約成立だ。早速案内しろ」
ウンケイが拳を差し出すと、子狸も拳を差し出し、互いの拳が付く。すると、子狸はくるりと踵を返し、尻尾を振りながら歩いていく。ウンケイは黙って子狸に付いて行く。
「何だか知らんが、これで楽に上がれるじゃねぇか」
ウンケイは
「それにしても静かだな。ビルサはいるんだろ? あの野郎は何をしてんだ? 何か嫌な予感がするぜ。悪い事でも起きそうだな」
バリッ!!
「え?」
ウンケイと子狸が歩く床が破れる。そのままウンケイと子狸は地下へ広がる暗闇へ、真っ逆さまに落ちていく。
「あああああ!!!」
一方城内の広場にて、
「あァ~腹減ったァ~。動けねェ~」
すると柱の陰で何かが動く。しゃらくは気配に気が付き、柱に顔を向ける。
「誰だァ! こいつらが臭ェせいで気が付かなかったぜ」
しゃらくが倒れたまま喚いている。すると陰から、お
「しゃらくさん大丈夫!? 凄い怪我!」
お渋が心配そうにしゃらくの顔を
「お渋ちゃァ~ん♡ おれが心配で来てくれたのォ~?」
「違います! ブンブクちゃんが、しゃらくさんの後を追って出て行っちゃったんです。それが心配で。見てないですか?」
話を聞いて、しゃらくが床に沈まんばかりに落ち込む。それでも、落ち込むしゃらくを揺さぶって、お渋が子狸の
「知らねェよォ。見てねェ」
今度はお渋が落ち込む。そして落ち込んだお渋を見て、しゃらくが更に落ち込む。
「・・・それより、このお侍さん達は? その
「おれがぶっ倒した!」
しゃらくが
「キ、キンバさん!? ・・・って事は本当に?」
お渋が目を丸くし、しゃらくを見ると、しゃらくはニコリと笑っている。
「・・・あなた本当に強かったのね。あなたならあいつを・・・」
ぎゅるるる!! しゃらくの腹が鳴る。
「お渋ちゃん! おれ腹減って動けねェんだ。飯食わしてくれェ」
お渋は頷き、しゃらくの足元へ周って、両の手でしゃらくの両脚を持ち上げる。
「お腹一杯にしてあげるから!」
お渋がしゃらくの脚を持って駆け出す。しゃらくは脚から引きずられる形になり、慌てるが動けないので、されるがままである。するとお渋は階段を降り始め、しゃらくは頭をガンガンと打ち付けている。
「
「待っててねしゃらくさん! 今ご飯食べさせてあげるから!」
お渋は気にせずしゃらくを引きずり、階段を降りていく。階段を降り切り、長い廊下をひたすら、しゃらくを引きずりながら駆けていく。そして調理場へと辿り着く。
「はぁはぁ。着きましたよ! しゃらくさん!」
お渋が振り返ると、顔をパンパンに
「ぎゃあああ! しゃらくさぁーん!!!」
お渋はしゃらくを抱きかかえ、目一杯に涙を浮かべる。
「死んじゃ嫌ぁー!! ビルサを倒してぇ!!」
「・・・死んでないよ」
しゃらくが声を振り絞る。お渋は抱きかかえたまま、しゃらくの顔を見ると、しゃらくがパンパンに腫らした顔で、鼻の下を伸ばしてニマニマと笑っている。
「いやぁ!! 気持ち悪い!!」
しゃらくを突き飛ばして平手打ちする。
調理場内でしゃらくがむしゃむしゃと大量の料理を食べている。その脇でお渋は不安そうに見つめている。
「明日からのお侍さん達の食事が無くなってしまったわ。どうしよう・・・」
「はひほおふ! ゴクリ。明日から侍達はいねェんだから!」
しゃらくがニコリと笑う。お渋はその笑顔を見てふっと微笑む。
「・・・そうね。これで私も後に引けなくなったわね。私はしゃらくさんを信じるわ」
しゃらくはグッと親指を立て、むしゃむしゃと
「どした? お渋ちゃん」
食べながらしゃらくが尋ねると、お渋は目一杯に涙を浮かべ、ポロリと
「・・・私の母は、あの男に、・・・ビルサに殺された」
「!?」
完