顔が溶ける
朝、起きて、鏡を見たとき、思わず、ヒッとのけぞった。酸か何かで顔を洗ったように、顔の半分近くの皮膚がただれ、醜くなり、べろりと捲れた一部から顔の筋肉が覗いていた。だが、痛みはない。触ってみると、鏡のようにぐにゅぐにゅと爛れているような感触もなかった。あまりにも気持ち悪く、その日は化粧もできず、すぐ、近くの病院に行くことにした。が、診察してもらうと、医者は、顔は何ともなっていないと言った。どうやら、自分の顔を鏡を見ると、おぞましく爛れて見えるようである。何かのストレスが原因で、そう言う幻覚を見ているのではないかというのが、医者の意見だった。大きな大学病院の精神科医に診てもらうように勧められた。
自分でも、あれこれ試してみて、スマフォで自撮りした画像の自分の顔は正常に見えた。対面で自分の顔を鏡で見たときだけ、爛れて見えるようだった。もちろん、友達にも相談したが、誰も本気で心配してくれなかった。
あんたの本性が鏡に映って見えてるんじゃないと、陰口を叩かれるのを何となく察した。そして、これまでの自分を反省し、いい人になろうと努力して、鏡の中の自分が普通に見えるようになるまで十年近くかかった。