友達だった
その小学校は、少子化の影響で、周辺の学校に統廃合されて、校舎が耐震性に不安があり、老朽化していたので、取り壊されると決まっていた校舎だった。取り壊し用の資材が持ち込まれていて、ドアなど、もう取り外されている部分があった。
もちろん、校舎内の照明はつかないが、山の中の学校ではないので、外からの明かりが多少は射し込んでいた。校内放送の機材も取り外されていたので、スピーカーなど自腹で買ってきて、校内に設置した。
「ね、あなたたち、あの子と友達だったと言って、お金を巻き上げたときも、うちの子が友達として勝手におごってくれたとか、あの子に先生へのいたずらを強要したときも、友達としてやめた方がいいと忠告したけれど、勝手にひとりでやったとか嘘ついたそうね」
校内には、私の声がきちんと流れていた。それを聞いた彼らは気色ばんだ。
「あ、あんた、あいつの母親だろ、そうだよ、俺たち、あいつとは友達だったんだ。あいつは俺たちから仲間外れになるのが嫌で、勝手に俺たちにおごったり、俺たちに気に入られようと自分から率先してイタズラしてたんだ。そうあの頃言っただろ」
「ええ、そうね。あなたたちのその証言を学校も警察も信じて、あなたたちには、何のお咎めもなしに、無事に二十歳を迎えて、呑気に成人式のために悠々と帰って来て、あなたたちに苦しめられて自殺して二十歳になれなかったうちの子に悪いと思わないの?」
私が校内に設置したスピーカーは、無線機であり、こちらの声を伝えると同時に、相手の声も聞こえていた。
「あなたたちだけが、のうのうと成人なんて、親として許せると思う?」
「いまさら、復讐かよ、おばさん?」
彼らは成人式を機に地元に帰って来て、そのついでに懐かしの校舎で同窓会をしないかというメールで誘われて、この校舎に入った。取り壊し直前とはいえ、不法侵入だったが、懐かしの教室には、缶ビールやつまみが用意されていて、で、彼らに私は昔の悪事を思い出してもらうために呼びかけを続けた。
「実は、あの子、自殺する前に日記をつけていて、あなたたちにいくらお金を巻き上げられたとか、コンビニで、なにを万引きして来いと命令されたか詳細に残していたのよ」
「あ、それがいまさらなんだって言うんだ?」
「実は、あと三十分程度でその詳細がネットに上がるようにセットしたの。死んだあの子のブログとして、もうすぐ公開されるのよ、もちろん、あなたたちの実名と一緒にね。もう二十歳だから、実名を公開してもいいでしょ」
「な、なに言ってんだ、ババァ」
「いまさら、そんなことしたって・・・」
「あら、あなたたちの中には、もう結婚や就職しているひとがいるんでしょ、昔、いじめで自殺した子のいじめに関わっていたと、職場や、義理のご両親に知られたら、どうなるかしらね」
「なっ・・・」
「この校舎のどこかに、そのブログを書き込むのに使ったノートパソコンがあるわ。はやく、見つけて、削除しないと、あなたたちの悪事が拡散されるわよ」
残り三十分というのは嘘で、もうブログは公開されていた。あとは、そのブログを読んだ連中が拡散し、いじめ自殺の真相を拡散してくれれば、あの子も浮かばれるはず。そして、残り三十分という言葉を信じて狼狽える彼らを私は高みの見物だった。