1-4:一年後
さてさて、苦渋多分二年弱。
私はすくすくと成長をして、自分で歩いて言葉も片言しゃべれるようになった。
とは言え、ここは異世界。
言語も何も全く分からない所からのスタートなので、周りの大人が喋っている言葉を単語から何となく覚える。
そして言われた単語がどんな意味かを理解しつつも状況把握をする。
で、最初に分かった事は、どうやら私には兄弟がいるらしい。
あのちょい悪イケオジは父親確定。
そしてなんかすごく偉そう。
まあそれは良いとして、先日一緒に二人の男の子が来ていた。
一人目は多分、十歳ちょっとだろう。
凛とした美少年で、あのちょい悪オヤジにどことなく似ている。
二人目はにこにこした笑顔の、優しい感じのする男の子。
やはり美少年で、将来有望株。
この二人は顔は似てないけど兄弟らしく、私を見ては何か言っている。
となると、私って三男あたりかな?
よちよちとまだふらつく足取りで、給仕のマリーと言う名前らしい女性の所へ行く。
彼女が私のメインの担当者らしく、色々と世話をしてくれる。
年の頃まだ二十歳前だろう、少女っぽさを残しているがけっこう美人でいろいろできる人。
こんなお姉さんがいたらいろいろ頼れるだろなぁ。
あ、母親も来るけど最近は授乳も無くなったので一日のうち数時間だけ様子を見に来る感じ。
胸の大きな凄い美人さんなんだけど、今日はちっちゃな女の子も連れて来ていた。
女の子は私を見るとにっこりと笑い、抱き着いてくる。
どことなく母親にも似ているから、もしかして姉なのだろうか?
と、今日は他にも女性が来ていた。
見た感じは母親より年上の女性っぽいけど、あの顔何処かで見たような……
そう思ってたら、あの二人の兄弟もやって来た。
そしてその女性の手を引っ張りながら「母上」とか言っている?
あれ?
その女性が私の本当の母親??
首をかしげながらしばし様子を見ていると、私の母親だと思うこちらの女性にも「母上」とか言っている??
えーと、つまり私には二人の兄弟がいて、姉も一人いて私の母親以外にも母親がいる?
これって、私の父親ってもの凄く力もっていて奥さんが複数いるやつか!?
などと考えていたら、いきなり名前を呼ばれた!!
「アルムエイド!」
凛としたその声と同時に一番上の兄と同じくらいの女の子がやって来た。
まごうかたなき美少女。
うーん、本来は私もああいう美少女になるはずだったのに!!
で、どんな女の子か見上げていると、私を見てにっこり笑っている。
一番上の兄にどことなく似ているので、もしかしてこの人も姉弟?
彼女は私に抱き着き頬ずりしてくる。
しきりに何か言ってるけど、分かる単語と言ったら私の名前くらい。
でもこの姉らしき人物はしきりに私の頭とかなでなでして頬にキスもしてくる。
その溺愛ぶりがすごい。
すると、最初にいた小さな女の子も私にもう一度抱き着いて来る。
この子も姉なのだろうけど、同じく頬にキスしてくるので弟を溺愛しているのは同じなのだろう。
うーん、今のところ分かったのは私は一番下って事か?
「アルムエイド、〇×△□#」
異母らしき人が何か言ってるが、ひょいっと私を二人の姉から奪い去り抱き上げる。
そしてしばし私の顔をじっくり見ていて、グイっと抱き着く!?
自分の母親とメイドのマリー以外にこんな風にされるのは初めてかも。
すると途端に足元にいる二人の姉や、小さい方の兄からも抗議の声が上がっているみたい。
言っている言葉は、まだ所々しか意味が分からないけど。
異母らしき人はひとしきり頬ずりをしてから満足したように私の母に私を返す。
そしてにこやかな表情で何やら言っている。
うーん、あっちの方が年が上そうだから正妻なのかな?
となると、私の母は妾?
いや、見ている限りそうではなさそうだ。
もしかして二人目の奥さんとしての地位があるのかな?
どちらにせよ、二人の兄と大きな方の姉はあちらの異母兄弟のようだ。
実姉はちっちゃい方の女の子がそうらしい。
うーん、兄二人に姉二人の末っ子かぁ~。
こりゃぁ、立ち回り的に色々と頭が上がらないポジションかね?
でも、一つ分かった事はこの兄弟たちを見て、そして母たちやメイドたちを見て分かった事がある。
みんな美形だ!!
兄たちは絶対に将来有望株。
美少年なんだから大きく成ったら絶対のイケメン。
姉たちだって美少女。
なら大きく成れば美女確定。
うん、あの女神の言う通りかな。
もしこんな美男美女が王宮辺りで禁断の愛を語っているのを目撃したら……
り、リアルでも良いかも♡
そんな事を思っていたら、あのイケオジである父親がやって来た。
すぐにみんな頭を下げてかしこまるけど、この人そこまで偉いんかい?
「アルムエイド、〇×△&%$」
なんか言ってるけど自分の名前以外はほとんどわからない。
でも、私を抱き上げ嬉しそうにするのはやっぱり父親なのだろう。
意外とがっしりした腕に抱っこされるのは悪くない。
ごつごつと固いけど、安定感があって安心できる。
「ち、父上~」
「おおぉ! アルムエイド、□△&#$!!」
片言に父親と言う単語を言うと大喜びしている。
こう言うのはあっちの世界もこっちの世界も同じなんだぁ。
「アルムエイド、今日は〇×△□#、&#$%!」
なんかこの親父は言ってるけど、分かんないってば。
「今日」とか言う単語は最近覚えたから間違いないだろうけど。
すると、周りが少しざわめく。
何だろうと思うと、母親たちや異母兄弟、実姉も何となくこの親父に言ってるようだけど、この親父は首を振って何か言っている。
すると、扉の向こうからローブをまとった人たちがやって来て、テーブルに水晶を置いて私の手を引っ張る。
そして指先にちくッとした痛みを感じる。
思わず驚いて泣き出す私。
すぐに母親が私を抱きかかえ、あやしてくれるけど一体何!?
が、しばらくすると後ろで大きな輝きが起こり、周りが騒然とする。
その輝きは虹色の様な、白いような、なんとも言い難い難い色。
と、私は急にある事を思い出す。
その昔、転生して間もなく状況を把握し始めた頃に夢の中で見たあの丸くて大きな光る球を。
その時の輝きと、今放たれている輝きは同じだった。
周りはまだ騒然としている。
あやされている私だが、私を抱きかかえる母親も何かに驚いているようだ。
一体何が?
ひっくひっくしながらその輝いている物を見ると、先ほどの水晶だった。
その輝きはあの夢の時と同じ。
そして莫大な光亮のそれは徐々にその光を収めて行き、やがて完全に沈黙する。
しかし、周りにいた人たちは驚きに固まったままだ。
「は、母上ぇ?」
「アルムエイド!! 凄い、アルムエイドは□〇×△#$%!!」
何が起こったか分からないので抱きかかえられている母親を呼ぶと、何かすごい事があったのだろう、大喜びで私を抱きしめる。
それと同時に兄や姉たちも私の元へ寄って来る。
えーと。
とにかく何故かみんな興奮気味だ。
そしてしきりに私の名前を呼んでいる。
一体何が?
そう思っていると、親父様が真剣な趣で私の所へやって来るのだった。