1-5:五歳になります♪
いやはや、時の過ぎるのは早いもので気が付けば五歳の誕生日をもうじき迎える。
さてさて、私こと、大宮珠寿《おおみやじゅじゅ》はあっちの世界で死んでしまい、こちらの世界に転生したわけだ。
で、苦難の乳児時代を何とか乗り切り、すくすくと成長してとうとう五歳になる。
この世界では、誕生日を五年に一度祝う風習があって、十五歳で成人となる。
あっちの世界より三歳も若くて成人とは驚きだけど、十五歳にもなればこっちの世界ではいっぱしの大人として扱われる。
まぁ、それは良いのだけど。
で、今の私はイザンカ王国の第三王子、アルムエイド=エルグ・ミオ・ド・イザンカと言う立ち位置にいる。
ちなみに父親はロストエンゲル=エルグ・ミオ・ドイザンカ。
このイザンカ王国の王様だったりもする。
だから、奥さんが複数いる状態だったのよね~。
私の実母はジェリア=エルグ・ミオ・ド・イザンカ。
王様の父との間には私を含め、三人の子供を授かっている。
姉の第二王女でアプリリア、九歳。
私、アルムエイド、もうすぐ五歳。
そして第三王女になる妹のエナリア、三歳と。
ああ、そうそう異母である王妃の兄姉たちも三人いるのよね~。
一番上の第一王子がアマディアス、17歳のクールな超イケメンの兄。
二番目が第一王女のエシュリナーゼ、十五歳のやっぱり超絶美少女。
そして三番目に第二王子である優しいシューバッド兄さん、十三歳がいる。
シューバッド兄さんはゆるふわ系のイケメンで、優しいのよね~。
うちの母親は第二王妃で、王妃である異母はエリーナさん。
何故か私を溺愛していたりする。
「アルム君~、一緒にお茶しましょうよぉ~♡」
魔導書を読んでいたら姉のアプリリア姉さんがやって来た。
彼女はにこにこしながら私に抱き着いてくる。
姉弟の中で一番スキンシップが多い姉だ。
「姉さま、僕今魔導書を読んでいるんですけど……」
「もう、アルム君ったら難しい本ばかり読んで、最近ちっとも遊んでくれないんだもん!!」
ぷく~っと頬を膨らます我が姉は、非常に見ていて可愛らしい。
勿論、将来は確実に美人になるだろう。
そんな姉にため息をつきつつ、私は本を閉じてマリーに言う。
「マリー、悪いけどこの本を片付けておいて」
「はい、アルム様」
マリーはそう言ってサッと魔導書を拾い上げ、さっさと片付ける。
五歳で魔導書を読んでいる私。
普通はあり得ないらしいけど、私には魔道を習得する目的がある。
実はあの時鑑定を受けていたそうだ。
このイザンカ王国は、建国三千五百年を超える古い王国。
なんでもその昔、魔法王国時代に魔法王ガーベルが建国したらしい。
もっとも、その魔法王国自体はなにかの暴走か何かで、三千年前に滅んだらしいけど、このイザンカはその魔法王ガーベルが建国したせいで魔術に関してはとても盛んな国でもあるそうな。
なので、王族も小さな頃からその魔法属性や資質を鑑定する為にああいうことをするらしいのだけど、本来は五歳の誕生日を迎えてからするらしい。
なのに、あの親父様はまだ二歳にならない私を鑑定すると言って聞かなかったとか。
どうやら、私は生まれつき魔力の漏れがあったらしく早い所その鑑定を行って優秀な魔法使いになってもらいたいらしい。
私と言えば、前世でシステムエンジニアの仕事をしていたので、全く異なる魔法について興味があると言えばあるので、マリーに文字を教わりながら本が読めるくらいにはなっていた。
そしてこのイザンカ王国には古来からたくさんの魔導書がある!
難しい表現がいっぱいだけど、読み解いているうちにまるで魔法ってプログラムを組むような感じだと言うのが分かって来る。
そもそも、魔法をこの世界に伝えたのは古い女神様。
「天秤の女神アガシタ」様とか言う女神で、女神の使う奇跡の力が魔法であって、その秘密を人の世界に教えた女神だそうな。
現在は世代交代して新たな「破壊と創造の女神」とか言う物騒なのが女神様やっているらしく、うちの国でもその女神様の神殿がある。
もっとも、今は古い時代の女神様は忘れ去られ、この世界で女神様と言えばこの女神様らしい。
『女神様が実在する世界かぁ……』
思わず日本語でそう言うと、隣にいたアプリリア姉さんは首を傾げ私を覗き込む。
「何それ? 聞いた事無い古代語みたいだけど?? もしかしてアルム君また新しい言語習得したの!?」
目をキラキラさせアプリリア姉さんはそう言う。
この世界の言語は比較的単純だった。
ブロック構造と言うか、動詞や形容詞等々は基本変化しない。
その言語の前に過去未来、現在進行形を先に表現するので言葉自体の変化が無いので慣れれば使い勝手がいい。
「コモン語」と言う言語らしく、何とこの世界の共通語らしい。
古代魔法王国時代は上級言語が話されていたのだけど、その次がこのコモン語、そして更に下の下級言語とかがある。
上級言語はほとんどの古い魔術書で使われていて、それが読めないと話にならない。
ちなみに、上級言語、コモン語、下級言語は言葉時自体の発音が違っているので、コモン語で「母上」と表現するのが下級言語だと「かあちゃん」となる様な感じ。
この辺の下級言語は王宮ではあまり使わないから教育係からは教わってないけど、マリーからこっそり教えてもらっていた。
何故ならマリーはその昔、冒険者でかなり有名な人だったらしい。
マリー曰く、「何かの折に必要位になるかもしれませんので、汚い言葉ですが覚えておいた方がいいでしょう」とか言っていた。
まぁ、そんなに難しい言語じゃないので覚えておいて損はないだろう。
しかし、なんで冒険者がメイドなんかやっているのかは聞いても教えてくれない。
マリーは、私たちに何か有ったら真っ先に動いて私たちを守る役目もあるとか言ってたけど。
で、そんな難しい本を読んでいるので自然といろいろな言語も覚える訳だ。
「うーん、魔導書のお陰かな。それじゃぁアプリリア姉さん、お茶にでもしましょう」
私はそう言って立ち上がると、いきなり扉が開きエシュリナーゼ姉さんが入って来た。
「アルム! アプリリアとばかりお茶してないで私ともしなさい! これは姉としての命令よ!!」
「あ~、エシュリナーゼ姉さんずるいです! 私の方が先にアルム君とお茶する約束したんですよ!?」
「何よ、貴女は先日もアルムを独り占めしたじゃない? 今度は私の番よっ!!」
うわぁ~、また始まったよ姉妹ゲンカ。
何故かこの二人は事あるごとに私と一緒にいたがる。
と言うか、スキンシップ多めのアプリリア姉さんもそうだけど、エシュリナーゼ姉さんもやたらと最近は私にくっ付きたがる。
「アルム、ここに居たのか? もうじきお前の誕生日だ。準備があるから一緒に来るんだ」
にらみ合っている二人を他所に、長兄であるアマディアス兄さんがやって来た。
もの凄くクールで女官たちの人気も高いイケメンなお兄ちゃん。
冷たい感じさえするのだけど、何かしらの時はこうして私の手助けをしてくれる。
「アルムぅ~、誕生日の準備いこうよ!」
「シューバッド兄さんまで……」
そしていつもアプリリア姉さんと私を取り合うもう一人の兄、次兄のシューバッド兄さんまで来てた。
「お兄ちゃん、何処か行っちゃうの?」
はしっ!
いきなり手を掴まれた。
見れば妹のエナリアがウルウルした目でこちらを見ている。
私より唯一年下の妹、エナリアはもの凄く私になついている。
もう、いつも一緒とか、大きくなったら「アルムお兄ちゃんのお嫁さんになるの!」とか言う程に。
うーん、どうするのよこの状況。
みんな何故か私にかまってくる。
私としては静かにとりあえず魔道を習得したいと言うのに。
と言うのも、最近また魔力漏れが酷い。
宮廷魔術師にも指導を受けているけど、魔力制御が上手くできない。
私の魔力総量は宮廷魔術師のそれを既に凌駕しているとか。
しかも属性が不明なので指導しようにも難儀しているとか。
この世界での魔法は、意識を集中して女神様から教えられた呪文を唱え、体の奥底から魔力を引き出し、それを奇跡の力に変換する。
魔素を魔力にして、万物に宿るマナに影響をして奇跡の力を起こす。
それがこの世界の魔法の原理だ。
呪文にはその現象を起こす為の過程が込められ、呪文を唱えると同時にその言葉どうりのイメージをしながら魔力を注ぐ。
だから女神様を心底崇拝して呪文一つ一つをしっかりと覚えて使うんだよーって教わったのだけど、最近ねぇ……
原理と言うか、魔法の使い方は分かって来たけどあふれ出る魔力が多いせいかどうか、呪文唱えなくてもイメージで魔法が使えたのはまだみんなには内緒だ。
たまたまなのかと思って何度か試したけど、呪文唱えずにイメージだけで出来ちゃったのであの時は困惑したもんだ。
無詠唱が出来る魔法使いは十万に一人とか、百万に一人とか、かなり貴重らしい。
だから早い所魔術の習得をちゃんとしないと、変に意識しただけで魔術が発動する場合がある。
先日のボヤも私です、はい。
明りの魔法を試している時に、もしこれが火だったらなんて思っちゃったら光の玉になっちゃって、暴発しちゃったよ。
慌てて水のイメージで消火したけど、すぐにマリーがなぎなたを携えて飛び込んできたときはなんて言ってごまかそうかと焦ったものだ。
だから現在の私は魔術の習得をして暴発を防ぐことに従事したいのだけど……
「じゃぁ、じゃんけんよ! それでいいわね兄さん!!」
「ふっ、好いだろう。女神様が広めたる神聖なじゃんけんなら誰も文句なかろう! かかって来るがいいエシュリナーゼ!!」
「え~、僕はじゃんけん苦手なんだけどねぇ~」
「でもこれなら私にも勝ち目あります、シューバッド兄さん嫌なら参加しなくていいんですよ?」
「もしアプリリアが勝ったらまたアルムを独り占めじゃないか? 僕もやるよ!」
「あたしも、あたしも! お兄ちゃんのお嫁さんになるぅ~!!」
……なんか向こうで誰が私と一緒にいるかを決めるじゃんけん大会が始まったようだった。
それを見て、私は思わずため息を吐くのだった。