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チビとの問答

「貴様、そんな薄汚いなりでここを通る気か!」
「だから参加なんかしねえって、遠くから見てるだけだっつってんだろ!」
城の門にいたいかつい顔の兵士と押し問答することしばし。城に入れた時にはとっくに式が始まっていた。
そうそう、結局のところタージアは不参加。それにルースとマティエは……うん、ここんとこ全く顔合わしてない。
かく言う俺とチビは寝坊。それがこの顛末だ。

「おとうたん、ここどこ?」と、相変わらずのんきなチビに城のことを説明しながら、俺は分厚い扉の隙間からトガリの就任式をそっとのぞいていた。

あいつの隣にはルースがいて、まるで木彫りの像みたいにガチガチに緊張しているトガリに何か話しているように見えた。
なんか……俺まで心配になってきた。
「トガリなにしてるの?」
「これから大臣になるんだ」
「だいじんってなに?」
「偉い人のことだ」
「えらいってなに?」
「いろいろと俺たちに命令とか指示できる身分……か」
「おとうたんえらくないの?」
「そんなモンなりたくねーからな」

「なんで?」
その言葉に、ふと俺も考え込んでしまう。

なんで。

その問いかけはシンプルなようでいて実に奥深い。
誰かがそんなこと言ってたな。親方か? いやそんな難しいこと親方が言うわけないか。
ラザトかナウヴェルか……まあ、そんなことは今はどうでもいいか。

「俺が偉くなったら、お前と遊べなくなるぞ?」
「……やだ」途端に泣きそうな顔に変わる。
子供ってかわいいもんだ。すぐに泣くわ暴れ回るわ熱出すわゲロ吐くわで、ずっとうざったいばかりだった存在でも、それが続いていくにつれ、それすらも苦にならなくなってくる。

そしてだんだんと言葉を覚えてきて、疑問が増えて……ああ、面倒なことには変わりないけどな。
そんな中、王子が現れてホールの中がわあっと歓声が上がった。
「なんでおとうたんはいらないの?」
「服がこれしかなかったからだ」
「おとうたん、くちゃいから?」
「人の話をちゃんと聞け」
そんなに臭いか俺?

……っと、王様はずっと病の床。んでもってエセリア……いや、ネネルも心労が重なってやっぱり寝込んでるって話だ。つまりはこの場にいるのはシェルニ王子のみってことになる。
ネネルのやつ、どうしているだろうか。エセリアとの一件以来、俺は一度も顔を見ていない。
だからかな、いざ会いたいと意気込んでここに足を踏み入れたのはいいが、なんか、こう……気まずい。
なんて話せばいいのか、何を話せばいいのか。いろいろ頭の中をぐるぐるとたくさんの思いが渦を巻いてしまって。

「おとうたん、トガリがなんかしてる」
我に帰ると、さっき以上にホールが驚きの声に包まれていた。
なんでだ? 王子がトガリの前にひざまづいて……話しかけてる?
そうだ、後で聞いた話だと、王子が平民……つまりトガリの前に膝をつく行為自体前代未聞のことなんだとイーグから聞かされた。
イマイチわからなかったが、つまり今のシェルニ王子は王様代行みたいなもの。そんな超偉い奴が人前でしゃがみ込む……うん、なるほどな。
その時王子は「アラハスの使者ドゥガーリ。この大役を引き受けてくれて感謝する、国を代表して礼を言わせてもらうよ」とトガリにささやきかけたそうだ。

もちろんトガリは立ったまま失神してた。いかにもあいつらしいな。

だけど、問題はそこからだった。
ドアの隙間からずっと式を見続けていた俺に睨みをきかせていた衛兵が、突然……まるで何かに取り憑かれたかのように、抑揚の無い声で俺に話してきたんだ。

「地下の薬草園に来い。話したいことがある」
なんなんだいきなり、と兵に話しかけても、魂を抜かれたかのように、半開きの口でただぼうっと突っ立ったまま。
だが俺は直感した。

「ネネル……か?」

あいつ、また変な呼び出し方を覚えたな。

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