カッコいいトガリ
突然、周りにいたお偉方連中がおおっとどよめき出した。
つーかなんでこいつら歓声あげてるんだろう。王子がトガリの服になんか付けてるだけだってのに。
………………
…………
……
そう、今日はトガリのやつが臨時で大臣に就任するってことで、俺も同行させられることになった。あんなトコ行きたくねーのに。
「で、でもラッシュがいるだけで心強いんだ。それにイーグも一緒に来てくれるっていうし。
いつもこいつはゆったりした服を着ているんだが、今日となると話は別だ。城にいるときにルースが着ているような、黒くて襟の部分がすげえ細くなった……ずっと来ていると酸欠で死にそうになるんじゃねえかっていうくらい細身の特注の服を着ている。
でもって、トガリの代名詞とも言えるあの両手の長い爪。今日は全部短く切り揃えられていて、なんか妙な感じ。
「ああ僕の爪ね。あのままじゃお城に行くのも物騒だっていうんで切って言われちゃって。けど伸びるの早いから大丈夫だよ」だとさ。あいつの一族はそういった点で臨機応変にこの長い爪を切ったり伸ばしたりしているそうだ。
「ラッシュ、お前服は持ってねーのかよ?」
「ねーよ」食堂の隅で、トガリ同様にぴっちりとした服を着たイーグが、いまいち元気なさげな声で俺にそう言った。やっぱりこの服がキツすぎるのかな。
「仕事とかで出入りする時はともかく、儀礼でその服はやべえぞ。きったねーしくっせーしで……ってぐわっ!」
なんかムカつく言い草だったから、とりあえず一発殴って黙らせた。
「おとーたん、どっかいくの?」ようやく目を覚ましたチビが、寂しそうな目で俺に問いかける。
そういやあの双子もどうにかしないといけねーな……フィンにまとめて預けるか。
「おとうたんといっしょにいきたい」
え……。思わず俺は聞き返してしまった。なんでお前が?
「ねねるおねえたんにあいたいの」
チビのその言葉に露骨に驚きを隠せなかったのは、イーグの方だった。
「え、ラッシュ……なんでチビがネネルの名前を!?」テーブルから身を乗り出して俺に迫り寄ってきた。
「俺だって知りてーよ、つーか俺ネネルのことなんか教えてもいねーのにこいつ知ってたみたいなんだ」
「ンなワケないだろ! お前が寝言かなんかで教え……ってぐはぁ!」
クソうるさいからもう一度殴って黙らせた。いやほんとマジでチビがそんなこと言うとは……
……いや、これを機に聞いてみるのもいいかもしれないな。
「ラッシュ、どうかなこの格好」
ようやく着付けを一人で終えたトガリが、俺に心配そうな顔で聞いてきた。いや、ちょっとチビにだな……まあいいか。
トガリは割と着痩せするタイプなのだろうか。なんか、不思議な感じ。
もっと突っ込んだ言い方をすれば……「カッコいいじゃねえか」。
「そ、そうかな? でもラッシュにそう言ってもらえてうれしい」照れてる照れてる。お前らしくもない。けどめちゃくちゃかっこいいぞ今のお前のその姿。
「どうせだったらチビちゃんもお城へ連れて行く? まあラッシュのその格好もアレだから、式典に参加することは無理だとは思うけど」
サラッとトガリの言葉に毒が見えたような気がしたが……そうだろうな、けど俺に取っては好都合かもしれないけどな。
「ラッシュ、お前の考えてることなんて一発でわかるぜ……チビをネネルに会わそうとしてるんだろ」
俺に殴られた頭をさすりながら、イーグは半ばうんざり顔で話した。そうだ、合ってる。合ってるじゃなくて会ってチビのことを聞いてみようかな、なんて俺はちょっと企んでいたんだ。
「いや……あいつもラッシュに会いたいってここ最近話してたんだけどな。俺も会わせたいと思ってたし、けど……」
いつにもなく真剣な目で、イーグはさらに続けた。
「エセリアはエセリアで、ネネルはネネルだ。きちんと心の中では切り離して考えていくんだぞ。あいつは……」
俺にかろうじて聞こえるくらいの小さな声で「マシャンヴァルの姫さんでもあるんだし」って。
横から「ネネルって誰? ラッシュの好きな人?」だなんてトガリが横槍いれてきたから、いつも通り一発殴って黙らせた。